はる

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋のはるのレビュー・感想・評価

4.1
シャーリーズ・セロンはスカルスガルド兄弟と縁があるなあ、ということはともかく、年末年始で観た『幸福路のチー』『テルアビブ・オン・ファイア』に続いてまたも政治面を含んだ作品である。たまたまというよりも、海外では政治や社会への提起がエンターテイメントと結びついているので珍しいことでもないのだ。
今作はロマンスもあるコメディで下ネタが連発される。しかし政治や社会、とりわけジェンダーへの配慮と提起が笑いと同期していて上質な下品さと言えるような本になっている。

まず面白いのはセロンのコメディエンヌとしての一面が見えるところで『ヤング≒アダルト』以来だろうか。彼女が各種の「そのセリフ」を言うことのギャップがあるから可笑しい。彼女自身はやはり力強いままでイメージ通り。ただしそのままで「立ったまま寝る」などの小ネタをうまく当てはめているし、普段よりも柔和な表情も多くあって絶妙なバランスだったと思う。
今作は劇中で引用があったように『プリティ・ウーマン』などの類似する作品の構図の男女を入れ替えたもの。だから観ているときは『ノッティングヒルの恋人』を思い出したりしていた。ただしそれらと違うのは「男がブサイク」ということだろう笑。

基本的にコメディの部分はセス・ローゲンが担保してセロンの良さを引き出す、という構図は劇中でのフレッドとシャーロットのそれと重なる。ここでセロンをコメディ寄りにしないことで彼女の力強さは維持できるし、そうして初めて「女性大統領」というファンタジーのリアリティが増す。女性というだけで好感度などの数値が信じられないほど下がる、というのは作中でも語られていた。環境問題も合衆国社会と相容れない。そういう前提を見せておいて、そこからゴールに向かうまでの障害の多さをロマンスも絡めてこのような物語にしたことが素晴らしい。
不適格すぎる人物があのポストに就いた場合どうなるか、の現在進行形にある世界でこのようなファンタジーは夢のようであるが、シャーロットの聡明さと麗しさ含めて「目指すべきもの」を示してくれたようにも思える。

とにかく「現代」が詰まった良作で、これを年始の公開初日に観たことは本当に良かったなと思う。

ちなみにフレッドが海辺で佇んでいたときに使われた曲はフランク・オーシャン版の「Moon River」で、知っている曲だったから「海でオーシャンか」と苦笑するのだけど、同時に歌詞の一節である"Two drifters"などがあの状況とかけられていることは察せられた。あらためて歌詞を見直すとなるほどと思える重要な曲だ。オーシャン版では歌詞も一部変わっているし、そこが意味を持つことになる。

またこのときフレッドを驚かせたあのボディガード、「エージェントM」が2人の交際会見の脇で少し笑みを見せるのだけど、そこが最高。
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