ベルサイユ製麺

ガンジスに還るのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ガンジスに還る(2016年製作の映画)
3.6
インド映画も観るんですよ?
…どうでも良いですよね。へへへ。


草原、ポツンと立つ大きな樹。木漏れ日。
木登りの少年は、母の呼ぶ声に走り出すが、村の中には走れど走れど人影が無い…

…という夢を見たんだと家族に話す老人ダヤ。
「いっつもの夢じゃないですか」と邪険にされる。続けてダヤは「死期の訪れを悟った。バラナシ(ヒンドゥー教最大の聖地)に行く」と言い出し、家族は呆気に取られる。要は、もうすぐ死ぬから聖地で死にたい、と…。
ダヤの家族は、仕事に忙殺される息子のラジーヴと、ダヤを疎むその妻、そして反対にダヤのことが大好きな娘の3人。戸惑ったり、ウザかったり、悲しんだり。

なんとか仕事のやり繰りをして休みを取ったラジーヴ。ダヤと共に乗合タクシーや人力車?を取り次ぎ辿り着いたバラナシは、熱心なヒンドゥー教徒や単なる観光客で大変な賑わい。
解脱を控えた者達の宿泊施設“解脱の家”に宿泊施設し、来るべき日を待つ父子だったが…。


ダヤ爺ちゃんは、特別偏屈って訳でもない普通の和かなお爺ちゃんです。ラジーヴはちょっと神経質で、進歩的。きっとインドの新世代のステロタイプなのでしょう。
あんまり言いたく無いのですが、邦題がホントにKUSOでして、『ガンジスに還る』なんて文化映画みたいなタイトルついてますが、実は基本はコメディです。
先ずはジェネレーションギャップが引き起こすオフビートな笑いに、つい笑みが出てしまいます。この雰囲気は全編を通して窺えます。
“解脱の家”に着いてからは、考え方の違う父子の共同生活展開になります。この“解脱の家”がまるで漫画喫茶みたいな独特なシステムでして
「部屋に空きが無かったんだけど、ちょうどちょっと前に解脱した方が…」
「解脱できてもできなくても15日で出てください」
「私はもう18年ここにいるのよ(←⁇)」
「大麻が名物だから、裏で楽しめるよ」
みたいな、解脱とおよそ程遠いような俗な感じなのは呆れ笑いが出てしまいます。これ、リアルなのかな…?
で、実際ここでの生活が満更でもなくて、解脱18年選手のヴィムラおばさまとの交流や、みんなで集まって観る『謎の円盤』(←というテレビ番組があるみたいです)に、ダヤはにっこりですよ。勿論大麻だって、ラッシーに入れて飲んじゃう!…解脱どこ行ったの?と言いたくなるような日常系的展開ですが、ダヤの予感はやっぱり正しかったのか、にわかに具合を悪くし伏してしまい、ラジーヴは慌てて家族を呼び出します。…力なく横たわる父、先に解脱しガンジス川のほとりで荼毘に付される人達を見ているうちに、徐々にラジーヴの心境は変化していきます…。
主題になっているのは、《変化していく家族の在り方と、変わらない・変わってはいけないもの》などかとは思うのですが、インド文化やヒンドゥー教の価値観への理解度がある程度ないとメッセージを真芯で捉えるのは難しそうにも思えました。…と言っても家族の話ですからね。全く気持ちが分からないって事は、ないんじゃないかなぁ。ラストシーン、当然多くは言えませんが、とってもポジティブな予兆に満ちた終わり方だと思います。作品の方向性としては、ヘヴィさ控えめの時の是枝作品にも通じるものが有ると思いますよ。
普通にテクニカルな撮影が良い雰囲気です。劇伴も、日常的に聴きたいような心地良さ。それになんといっても役者達が良い顔!!特にラジーヴ役のアディル・ フセインの佇まいが素晴らしい。踊るでも歌うでもなくても、小さな表情の変化でぐいぐい引き込むんですよね…。

最後、ちょっと示唆的な事を書いてしまいましたが、これは個人的にはホント好きなタイプのインド映画です。何かを察して、同意いただけそうな方には是非ご覧いただきたい!
因み英題は『Hotel Salvation』。そのまま『救済ホテル』の方がよっぽどしっくりくるよ!