さよこ

ラジオ・コバニのさよこのレビュー・感想・評価

ラジオ・コバニ(2016年製作の映画)
4.5
【これ以上は見ていられない69分】

冒頭から早々に言葉を失う場面の連続だった。銃撃戦の乾いた音、クルドの女性兵士、瓦礫の死体、すべてが生々しく同じ世界で起こってることが信じられなかった。

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突然ISが攻め込んできた。主人公が云う「彼らが何を欲して何を奪いたくて侵略してきたのか理由が分からない」は、街に住む全ての人が感じていたことだろう。

銃撃戦の乾いた音。手榴弾に火をつけて投げ込む兵士。女性も男性も関係ない。そこには一線で散弾銃を撃ち込み活躍する女性兵士がいた。

衝撃だったのは「ヘルメットを被っていない」こと。銃声の音がする中でヘルメットもせず、銃を撃ちながら移動する。いつ弾丸が飛んでくるか分からない。あたしなら怖くて足が竦んでしまう。

もう一つ驚きだったのは「笑ってる」こと。爆弾に火をつけてIS側に投げ入れたり、銃を撃ったりしたあとに、ふふって笑ってるのが印象的だった。命懸けの状況で笑える、てメンタルの強さがケタ違いだなって。

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ドキュメンタリーだっけ、作り物だっけ、て混乱したのは瓦礫の中の死体の撤去作業。ビル中に入って手足バラバラの死体を次々担架に乗せていくシーン。瓦礫を撤去してショベルカーで掘り起こしていく作業は、人間が人間のカタチをしてなくて、でも人間の部位は理解できて、妙に生々しい肢体が映し出されて、時にはまっ黒焦げで、子どもたちは腐敗臭に鼻をつまんで、スクリーン越しに腐った臭いがしてる気がして。今まで観てきた戦争映画は、ああ、作り物だったんだ。本物の死体はこうなんだ。あれ、本物の死体って放送していいんだっけ。R指定入ってたっけ。とにかく頭が目に映る情報以外のことを考えようと一生懸命だった。くらくらした。

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IS側の兵士が捕虜となり、コバニ側の人間から尋問を受ける。コバニ側の尋問者はまるでセラピストのように優しい物腰だった。

IS側の主張は「神の教えだ。この街の人々は信仰が薄い。だから制裁だ。」の趣旨をいう。人を殺すことがあなたの神の教えなのか、の問いに口をつぐむ兵士。何か要望があるかの問いに「家族に会いたい。自分は金が欲しくて兵士になった。家族に会いたい。会いたい。」と捕虜がいう。

これまでこの捕虜は何十人と人を殺し、その人たちは二度と家族に生きて会うことはできないのに、自分は「家族に会いたい」と言う。虫が良すぎてびっくりした。その場にいたコバニ側の人間はよく冷静で入れたなと思う。殴っちゃえ、殴っちゃえ。

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たった69分のドキュメンタリー。正直長いと思った。そのくらい空気が濃い。彼らたちは三年近くこの生活をしてきたのかと思うと気が遠くなる。目眩がする。

ISに志願願望を持ってる人は、バーチャルな戦争じゃないことを自覚するために死体のシーンを見て考え直した方が良い。あたしたちが知ってると思い込んでる戦争は、想像上のものでしかない。

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同じく胸糞ドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」を思い出した。アクト〜と同様に、彼らが自分たちのしてきたことを自覚し、罪悪感に苛まれる様子をドキュメンタリーにしてほしいと思った。

辛いドキュメンタリーだったなぁ。
さよこ

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