Hopelessness

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのHopelessnessのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

本編は、レオナルド・ディカプリオ演じるリック・ダルトンとブラット・ピット演じるクリフ・ブースとの友情譚とざっくりとまとめられよう。ここに主にリック・ダルトンが演じる劇中劇が頻繁に挿入される入れ子構造となっている。
加えてマーゴット・ロビー演じるシャロン・テート(史実では、本劇最後の夜にカルトに殺害される)の物語がパラレルに走っている。このシャロン・テートの物語はラストシーンまで主人公たちの物語とはほとんど絡み合うことなく進む。
「男の物語」と「女の物語」がパラレルになっているとまとめてもよいのかもしれない。

その一方で、リック・ダルトンとクリフ・ブースはともに別々の形で「若者の物語」と絡み合いをみせる。リック・ダルトンは劇中劇の現場での子役とのやり取りの中で自分自身を見つめなおす。クリフ・ブースはかつての自分の職場を根城にしていたカルト信者のヒッピーと出会う。子役とのやり取りの後で、リック・ダルトンは役者としての矜持を取り戻し、イタリア映画に出演し、妻をえる。一方で、カルトの根城となった牧場でクリフ・ブースはかつての仕事仲間であったジョージ・スパーンの変わり果てた姿を目にする。
若者たちがそれぞれ主人公たちに見せたものは、一方では未来につながる現在であり、他方で変容した過去としての現在であり対照的である。

すべての物語は1969年8月9日にリック・ダルトン宅において収斂する。このときのクリフ・ブースとカルトのヒッピーとのやり取りは、酸いも甘いもある現実を生きる大人と、与えられた空想のみに生きる若者という構図をとっている。ありがちな、頭の固い大人に対して現実を鋭く感知している若者という構図は本作において逆転されている。「大人はわかってくれない」ではなく「子供にはまだわからない」といったところだろうか。
また、プールに飛び込んできたヒッピーの女が銃を乱射しているときに、リック・ダルトンが劇中劇で使用した小道具の火炎放射器を使った場面は、劇中劇が入れ子構造を超えて本編に顔を出したようで印象的である。
さらに言えば、劇中劇で火炎放射器を使用したシーンがナチス幹部に向けてだったことを鑑みれば、このカルトに染まったヒッピーもまたナチス幹部と類似的関係であると考えてよいのかもしれない。ともに、ヒトラーとチャールズ・マンソンという絶対的な主を持ち、それに盲目的に帰依するものとして(本作にメッセージ性を求めるのであれば、ここであるように思う)。

最序盤ですれ違って以来、ラストシーンになってようやくリック・ダルトンとシャロン・テートが(インターフォン越しで)言葉を交わす。ここにおいて「若者の物語」と絡みながら進んできた「男の物語」と、それとパラレルに進んできた「女の物語」とが収斂し、静かに劇は終わりを迎える。
Hopelessness

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