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セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!のalmosteverydayのレビュー・感想・評価

3.5
壮大なタイトルに似つかわしくない、穏やかで家族思いで強く優しい男たちの物語でした。

マルクス主義哲学で教鞭を執る大学教授のセルジオ、ソ連の宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士セルゲイ。かたや文系のキューバ人、かたや理系のソ連改めロシア人。そもそもの話として、こんなハイスペック超絶エリート同士の友情物語になど感情移入できるはずがありません。あまりにも畏れ多すぎやしませんか、これ。

にもかかわらず、彼らがやけに親しみやすく人間味にあふれて見えるのは、政情不安を抱え男のメンツやアイデンティティを守ろうともがくプライドの塊ではなく、愛する家族を飢えさせるまいと奮闘するごくありふれた父親として描かれているからだと思いました。「宇宙飛行士は泣かない」と己に言い聞かせながら孤独と戦うセルゲイも、無事帰還した彼の姿をテレビ越しにじっと見つめて滂沱の涙を流すセルジオも、ただひたすらに心優しい父であり友を思うナイスガイだった。何だよちくしょう、泣かせるじゃねえか…!

映画全体としては派手な山場も見せ場もなく、ゆるーいノリで淡々と物事を追うつくり。時おり挿入されるキューバ音楽の、どこかのんびりしたメロディと陽気なリズムがこの雰囲気づくりにひと役買っていたと思います。とびきりキュートなセルジオの娘・マリアナが成長し過去を振り返るテイでナレーションをあてているのも味わい深いです。

ただ、これ、本当はもっと長いバージョンもあったのでは…?セルジオと女子学生の関係とか、セルゲイの帰還にまつわるあれこれとか、第三の男・ピーターとその参謀(?)との関係性など、伏線に見えてその後まったく深掘りされなかった点がそこかしこに。もしもノーカット版が存在するのだとしたらぜひとも見てみたいです。
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