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バイスのろのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
5.0

「副大統領」のバイス、「悪徳・邪悪」のバイス


社会学部生だったのに政治・経済にとにかく疎い私(笑)時事を扱う授業で大苦戦していたくせに、予告編で大笑いしちゃったのでさっそく観てきました。

おもしろかったなぁ~!ほんとに!
どこを切り取っても凄まじいブラックユーモア!
途中、クライマックス風の音楽とともにエンドロールが流れたり、「これは(なんでもありの)映画やからちょっとやってみますか」みたいなノリで突然シェイクスピア口調になったり(笑)
外国人のお客さんに囲まれながら大笑いでした!


ブッシュ政権下で副大統領を勤めたチェイニーさん。
彼の若かりし頃から政治家として権力を握るまでがリズミカルに描かれていきます。

でね、おもしろいのがやっぱり“心理”なんです。
チェイニーさんの言葉のトリックがすごい。
たとえば、相続税を減らしたい(なくしたい)とき。
法案はおそらく通らない。
そこで考えたのは、言葉を言い換えるということ。
「相続税」じゃなくて「死亡税」とすれば、「死人にまで金を払わせる気か!」と人々は騒ぎ出す。
また、地球温暖化対策に反対だったチェイニーさん。
「地球温暖化」を「ただの気候変動」と言っちゃうんですね。(ここまで来るともはや清々しい!)

そしてそれを煽るのが・・・出ました、メディアです。
政治とガッチリ手を取り合ったメディアは国民に刷り込み、刷り込み・・・
こういった方法を使って、雰囲気重視の群衆を簡単に手懐けていきます。

それでね、この映画の最高におもしろいところは、チェイニーさんのやり方を“釣り”に例えているところなんです!
先ほどの話で言うと、メディアが見せかけの情報(擬似餌)をばらまきます。そして釣り糸をじわりじわりとたぐり寄せるのがチェイニーさん。
ブッシュさんが「副大統領をやってくれない?」と頼んだときも、このやり方で地位と権力をより確実なものにしていくんですね。
「副大統領は形だけで力がない。国民や軍の監視は?外交や経済は?」
チェイニーさんがどんどん主張を通していく様子と、獲物がかかり糸を巻き取っていく手元が交互に映し出される!この恐ろしさといったらもう!


「低賃金に長時間労働。疲れ果てた人々は政治について語り合う気力を失っている」からはじまり「こんな映画より、『ワイルドスピード』たのしみだね~」で終わる今作(笑)
小学校の卒業アルバムに「何のために歴史を学ぶか分かりますか?未来をつくっていくためです」とコメントを寄せてくれた先生がいたけれど、歴史だけじゃないな、今のこともしっかり学ばなくちゃ。
だってヒトラーもチェイニーさんも、全然過去じゃないんだから。






( ..)φ

チェイニーさんを演じたクリスチャンベールさんのお名前とともに心臓を模ったルアー、映画のタイトルロゴとともにホワイトハウスのルアー(笑)こんなにたくさんのルアー(毛針)が出てくるエンドロール、初めてだよ。
そうそう、エンドロールにも映像があるのでお見逃しなく。
最後の最後までたのしい映画です。
ろ