H・W・ブッシュ政権時に国防長官を、ジョージ・W・ブッシュ政権時には副大統領を務めたアメリカ政界の影の権力者と呼ばれたディック・チェイニー。
そんな彼の20代から70代を演じるにあたり、約20キロにも及ぶ増量、さらには髪を剃り特殊メイクで撮影に挑んだベイルの役者魂に圧倒される。
2001年9月11日の同時多発テロ以降、法を曲げ、アメリカをイラク戦争へ導いた影の権力者を赤裸々に描いた本作は、単なるブラックコメディや風刺といった概念には決して収まらず、わずか建国244年という“若い国”の、未熟な権力者が犯した罪や過ちを観るようで、むしろ笑えなかった。
しかしその一方、まだ存命する政治家や個人を痛烈に皮肉り、批判する(出来る)お国柄は、いかにもアメリカらしく、例え数年後に現大統領を風刺した映画が登場したとしても…それは“自由の国”を以てして、何ら不思議ではないことなのかもしれない。
206 2020