Maki

希望の灯りのMakiのネタバレレビュー・内容・結末

希望の灯り(2018年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

原題:In den Gangen/In the Aisles
公開:2018年
鑑賞:U-NEXT(字幕)

東西統一後の旧東ドイツ。ライプツィヒの大型スーパーマーケットを舞台に、在庫管理に配属された新人青年(クリスティアン)、先輩男性(ブルーノ)、先輩女性(マリオン)と周りの労働者たちの日常、苦悩、歓び、哀しみ、そして闇と灯りを描く。




▼ ▼ ▼ ネタバレあり ▼ ▼ ▼




●舞台。スーパーマーケット
Filmarksにどれぐらい経験者がいらっしゃるか知らないけれど、私は大型の商品倉庫で働いた経験があるので、とても感情移入しちゃった。国を超えて日本だって、在庫管理に憧れて就く方はあんまりいない。私が倉庫で出逢ったのもほとんどなにかの夢に破れたり目標を見失った方が多くて…。脱サラ失敗、倒産させた元社長、社員に内緒でバイトする社長、現役ヤク○、役者や芸術やスポーツに己を賭けて負けたひと。アジアや中東からのカタコト面々。突然来なくなったら亡くなっていたり捕まっていたり。みんな喪失と諦念を抱えながら、生きるため、誰かを支えるため働いていた。

●新人青年(クリスティアン)
コミュニケーション不全で口数や表情も乏しい。素朴で優しく傷つきやすい内面をもちながら、環境や仲間に引き摺られて遠回りの人生を歩んできた。そう細かく説明しなくても伝わる佇まい。調べたら舞台演劇で活躍されている俳優だそうで見事。じわじわ氷が溶けるように、養分が葉先に浸透するように、周囲と親しんでゆくのもよかった。ただマリオン宅不法侵入はダメ 笑
冷凍倉庫での逢引き。やっとふたりきりになっても「イヌイットの挨拶」だけで止めるの何気に凄い。でもマジ激寒なのでそんな余裕ないか。

●先輩男性(ブルーノ)
長距離トラックを懐かしみながら今を楽しむ素振りで、若い後輩を慈しむ様子を見せる。同時に哀しみや虚しさに苛まれていたとわかる選択が辛い。どちらの姿もほんとう。
私も長距離トラック助手経験したから、彼が「花形」だったのは容易に想像つく。かつてアウトバーンで一般車輛を見下ろしながら、ドデカい車体を駆っていた彼の漏らす「今はフォークリフト乗り」の寂しさも。映画では東西ドイツ統一前後の変化、人民社会の軋轢がベースとなっているから単純比較はできないが、ブルーノは高齢ブルーカラーの一つの象徴に見えた。

●先輩女性(マリオン)
派手な美女でなくたってそこはかとなく色気が溢れる。演じられた俳優の巧みさや台詞ひとつひとつから、どこかのスーパーマーケットに居るよねってリアリティ。自宅シャワールームで泣いているのかと思いきや鼻歌はちょっと笑ったけど。彼女がどんな境遇かはブルーノの台詞「病気で休んでいる」「旦那がろくでもない奴」だけで、DV被害者かどうか露わにしないのも憎い演出。

●フォークリフト
世にも珍しい?「フォークリフトあるある」満載映画。フォークリフトにも乗ってたから、わかるわかるよだらけ。

手で押し引きするハンドリフト(ハンド)。車のように運転するカウンターリフトの大型・中型。立って操縦して小回りの利くリーチリフト。新人 は不慣れであっちいったりこっちぶつけたりする。ベテランが交響楽をバックに流麗に滑走させる感覚も憶えている。高性能フォークの獲りあいも、空いてるから乗ったら「俺のだ」って怒られるのも、フォーク同士で衝突も、どれも懐かしい。

過激な教則ビデオ。複数で乗っちゃだめとか爪に乗っちゃだめとかの安全ルールは多忙な現場では形骸化され危険行為日常茶飯事。私がいた倉庫の隣の倉庫では全国ニュースになった事故が起きたから、大袈裟じゃなくあのビデオの啓蒙は間違いではない。
だけど、フォークリフト、慣れるととっても楽しいの。自動車と同じく男女関係なく操縦できるし。クリスティアンが練習する「見上げる高さのパレットの僅かな隙間に爪をすっと挿し込み、静かにパレットを下ろす」なんて身体が覚えたらロボットのパイロットかパワードスーツ装着気分。たまに夢に見るほど覚えてるし、なかなか機会もないけれど、いつかまた乗ってみたいな。

●波の音
劇中なんども聴こえる波の音の正体。ほんとうにそんな音がするかは残念ながら記憶がない(だって現場やかましいし)。でもこのラストシーンでの聴こえ方、胸に残った。
Maki

Maki