男は女の幻影を追いかける。だけどそれはいつからだろう。最初から?
赤いドレスに身を包んだパウラ・ベーアが、忙しなく現れては消えていく。誰かを探している様子だけれど、そのジャンヌ・モローを思わせる瞳には狂気が宿っている。
物語後半、それまで夜の閉塞感が強調されていたホテルの部屋の開け放たれた窓から陽光に照らされる地中海が見えて、そこに彼女が留まった瞬間の映画的エモーションは格別。
そのエモーションに囚われた男は、だから決して不幸には見えない。むしろ笑みをたたえて幸せそうだ。暗転したエンドロール、彼を祝福するようにデヴィッド・バーンが高らかに歌う。
「何処へ行くかはわかってる、何処から来たかはわからない。今朝はとてもいい気分、天国への道を行く」