ぬーたん

未来を乗り換えた男のぬーたんのレビュー・感想・評価

未来を乗り換えた男(2018年製作の映画)
4.0
タイトルに惹かれて鑑賞。設定は分かり辛いし全体に暗かったが、好みだった。原作は第二次世界大戦時に書かれたドイツ人女性作家の『Transit』という本。ナチスから逃れて海外亡命した実体験を書いたという。しかし、今作はその時代を描くのではなく、時代を現代に持って来た。架空の現代で舞台はフランスの港町マルセイユ。当時の亡命者を現代の難民者に重ね合わせたらしいが、設定は良く理解出来ぬまま観ていく。
ファシズムが台頭しドイツからフランスに逃げて来た、という主人公。ゲオルクにフランツ・ロゴフスキー。出生時に口唇口蓋裂があり手術をした跡が残っている。またそのために発音に影響してるらしい。役作りなのか、顔色は悪く表情が暗い。イケメンではないし、どちらかというと悪役で脇役っぽい地味なタイプ。しかし、この役自体がごく普通の人間だから良いのかも。迫真の演技でだんだんとこの人物に感情移入し、そんなの放っといて行きなよ、とか騙されるな、とか心の中で叫びつつ観たわ😅
彼が”乗り換える”フランツ。その妻マリーをパウラ・ベーア。『婚約者の友人』が良かった。綺麗だし、何とも言えない妖艶さとクールさが魅力的だ。このメリーという女性、正直良く分からない。夫のフランツ、愛人リヒャルト、そしてゲオルグという3人の男性に対する気持ちや行動が、今一つ理解不能。一方の男性陣は皆マリーに翻弄され(ていうか勝手に翻弄されているだけ)魅力に取りつかれてしまっている。これぞ悪女かいな。
リヒャルトにゴーデハート・ギースという俳優さん。困っている難民を診たり心優しい医者である。
そしてゲオルグの仲間の妻メリッサ(ろう者)とその息子ドリス。このドリスと仲良くなりドリスも父のように慕うが…。
港町マルセイユの景色、レストランや街の中。リヒャルトの家の窓から眺める港と船。静かで平和な雰囲気は、会話や少しだけ出て来る警察でしかファシズムの気配も感じられない。
流れはちょっとイラつく感じでそれこそ『婚約者の友人』にも似た、なかなか全容が見えて来ないもどかしさがある。
このペッツォルト監督の『東ベルリンから来た女』を観たが、その時もそんな感じがあった。そういえばどちらも女性が強いね。
メキシコ領事館でのやり取りのシーンのゲオルグの表情やセリフが良かった。計画的ではないがチャンスを逃さない、そのしたたかさとその内にある良心が見えた。
モヤモヤが続くが、気になって目が離せない、どうなるかと102分。
ラストが‥素晴らしい。好きだなあ。
『彼は…』と語る人は一体誰なのか?その答えもラストに分かる。上手いなあ。
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