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ヘルボーイのsanbonのレビュー・感想・評価

ヘルボーイ(2019年製作の映画)
3.7
映像配信世代だからこその方針転換。

今作の公開当初は相当な低評価ばかりが悪目立ち、Filmarks内でも一時期2点台までスコアが落ちた程であり、そんなにつまらない出来栄えなのかと旧シリーズが好きだった分落胆も大きかった為、劇場での鑑賞はスルーしていたのだが、いざ観てみると意外にも全然ちゃんと面白いではないか。

確かに「ギレルモ・デル・トロ」版よりもキャッチーなポップさは欠けていたように感じたが、代わりにグロ描写が突き抜けて過激になっていた。

それも単純にグロくするのではなく、ちゃんと「ダークファンタジー」の設定に則ったグロさを追求していた為、キモさマシマシな世界観を今作ではより明確に構築出来ており、それらを存分に堪能できるだけでも観る価値は十分に感じられた。

特に、後半の地獄の魔物達のパレードはクリーチャーデザインもかなり秀逸で、触手のようなものを身体に引っ掛け、上に引っ張る事で皮だけを剥いでまわる魔物や、足が槍状になっており歩く度に人を串刺しにしながら前進する魔物など、それぞれの身体的特徴が殺しを楽しむ為に特化したビジュアルをしており、まるで「ベルセルク」の「蝕」を彷彿とさせる絶望的な光景を楽しめる。

ここまでグロさとユニークさに溢れた映像は、ここ最近ではパタッと見かけなくなっていた為、それを久々に拝めただけでも個人的には満足度の高い作品と言っていいし、正直ストーリーに関してもここまでの極端な低評価を下される理由が分からないくらいには観れる内容になっていた為、今のこの作品の現状には解せないものがある。

グロ過ぎという理由ならまあ納得だが。

そう、今作の魅力は一も二もなくそのグロさに集約されている訳で、これは確実に地上波での放送は不可能なレベルである。

そして、こんな映画が世に出ると「このご時世にこんな表現大丈夫?」といった声が何処からともなく聞こえてきそうであるが、その「大丈夫?」の"判断基準"となってきたのは言わずもがな"TV"の規格である。

無料で視聴可能であり、誰の目にも触れ、誰でも気軽に楽しむ事が出来るTVという存在は、自由度の高い娯楽であった反面、時代を重ねる毎に"倫理"を過剰に問われる様になっていった。

そして今や、度を過ぎたようにあらゆる"刺激"が規制の対象となり、ちょっとでもエッチだったり怖かったり過激だったりすれば、即座に「BPO」が取り締まるように仕組みが出来上がってしまった。

この場を借りて言わせてもらうが「ヤラセ」に厳しい風潮も気に食わない。

勿論、正確さが生命線となる情報番組やワイドショーなどでそれがあってはいけないし、その行為に金銭を絡めてしまうのは尚更ご法度である。

だが、それ以外のバラエティでの"演出"にまでヤラセだなんだと矛先を向けるのは絶対に間違っている。

バラエティはあくまで面白くする為の、作為的な演出ありきの番組であって然るべき筈のものなのに、誰が何を血迷ったかそれを糾弾しだしてから確実に風向きがおかしな方向に流れ出し、そんな事を繰り返している内にやれる事の幅はみるみる狭まり、面白くもなくなった。

そんな"無秩序な正義感"が横行してしまったから、TVは終わってしまったのだ。

そして、視聴者は与えられたものをただ見るだけの立場から抜け出し、自ら見たいものを選ぶようになった。

"有償サービス"時代の到来である。

月額を払い、自己責任で観たいものを選択出来る映像配信の世界には、前時代の様な過激さに溢れた作品が軒並み勢揃いで、バラエティ豊かなラインナップに満ちている。

メインストリームが、そんな自由度の高い媒体に成り代わろうとしている今、"映像表現"の基準は"再定義"される段階に差し掛かっていると感じている。

そう考えると、今回のリブートはそれに準ずる方針転換だと思えるし、もしそういう思惑があったとしたならばそれは大いに成功していたから面白いと感じた訳だから、これが潮流となってくれればとても喜ばしい事であるのだが、残念ながらそんな今作における"総意"としての低評価はまごう事なき事実であるし、続編作る気まんまんだった終わり方も、興行が奮わなかったせいで実現出来ない可能性も高い。

だからこそ、この野心的なリブートが世間に受け入れられなかった事をとても悔しく思うし、どうかシリーズ化を頑張ってもらいたいと願わずにはいられないのだ。
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