カツマ

シシリアン・ゴースト・ストーリーのカツマのレビュー・感想・評価

4.3
手を伸ばせば、そこにあるのは感触のないラプソディ、オルゴールのようなレクイエム。悲しみと温もりが夢と現実の狭間で揺れ動き、幻に照らされた光はいつしか二人を同じ場所へと連れていく。彼女は深い闇のような水面へと、幻を追いかけ走る。そう、再び愛する人と出会うために。
慟哭の実話を優しいフィクションで包み込んだ、想いを越えたラブストーリー。それはあまりにも悲しく美しい夜の彼方の物語。

劇場ではエンドロールで誰一人立つことなく、全員がオルゴールのようなメロディを見つめ続けた。終わった後に呆然と虚空を見つめるしかないあまりにも辛い真実。それでも、この映画のラストシーンは優しかった。まるであるゴーストへと捧ぐ追悼の歌のように。

〜あらすじ〜

1993年、そこはイタリアのシチリアにある小さな村。13歳のルナは同級生のジュゼッペに片想いの日々。
ある日、ルナはジュゼッペを追って森へと入るも、尾行に気付いていたジュゼッペは微笑みながら彼女を待っていた。ジュゼッペはルナから愛する誰か宛の(もちろんジュゼッペ宛なのは一目瞭然なのだが)、ラブレターを受け取った。その後も二人は夢のような時間を過ごし、ジュゼッペはルナへとキスを送った。
しかし、その直後、ジュゼッペは忽然と姿を消す。学校にも登校してこない。家に行ってもジュゼッペの祖父には冷たくあしらわれ、母親は泣くばかり。彼は果たしてどこへ行ったのか。ルナは自らの手で彼を探す決意を固めるのだが・・。

〜見どころと感想〜

この映画のカメラワークはハッとするほど美しく、凄惨な事件を扱っているとは思えないほどアート的。暗いシーンが多いところも象徴的で、ルナが徐々に闇の中へと踏み込んでいく描写を暗色で表現しているかのよう。水の中から上方を見上げるカット、敢えて確定的な事実を見えないことで強烈に印象付ける構図など、この監督のセンスが遺憾なく発揮されている。

だが、物語は非常に難解で、1993年に実際に起きた『ジュゼッペ事件』の知識をある程度入れておいた方が理解力は格段に増すかと思われる。自分はこの事件を知らずにこの映画を見たので、ラストのテロップで雷に打たれてそのまま呆然としてしまった。

この映画は最初から最後まで、実在した青年ジュゼッペへと捧げられている。彼にこんなアナザーストーリーがあったら・・というフィクションだけれども、13歳の青年にルナのような恋人が本当にいた可能性だってある。彼を想っていた人から綴られた、悲しみだけではないゴーストストーリー。真実は残酷で救いも何も無いからこそ、こんなドラマチックな物語が彼の魂を優しく包み込んでほしいと思った。

〜あとがき〜

今年の劇場納めはこのシシリアンゴーストストーリーとなりました。イタリア映画祭で話題を呼び、僅か半年という短いスパンで日本公開へと漕ぎ着けたこの作品。確かにかなり重いです。しかし、エンドロールは涙無しには見れなかった。忘れられない余韻を残してくれた作品でした。
カツマ

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