千年女優

人間の時間の千年女優のレビュー・感想・評価

人間の時間(2018年製作の映画)
2.0
軍艦でのクルーズ旅行に参加した日本人のカップルや、特別扱いされる韓国の著名な国会議員親子と恩恵にあやかろうとするギャングや売春婦に謎の老人らの様々な人々。大海原で各々の欲望がむき出しとなる事件が勃発し、それに呼応するように空中へと浮かび上がった艦内でそれぞれに暴走する混沌の様を描いたキム・ギドク監督作品です。

第69回のヴェネツィア国際映画賞で金獅子賞を受賞した『嘆きのピエタ』らの独特な世界観の作品が欧米で評価を受けるも性的暴行疑惑により韓国の映画界から追放されコロナにより死去したキム・ギドクによる、韓国では上映されなかった長編映画で、食欲や性欲、権利欲に溺れる人々をアダムとイブをモチーフにした独特の感性で描きます。

『マザー!』に似た寓話ですが、映像や物語も作り込みが甘く黒の章を見ての御手洗のような無垢な感傷には浸り難いです。なにより人の本性論はホッブス然りルソー然りで中世の政治哲学で頻出する前時代的な主題で、自然界の殺るか殺られるかの原理に背き、故に様々な矛盾に苛まれながらもそうでない世界を目指すのが文明なのですから。
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