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旅のおわり世界のはじまりのmuraのレビュー・感想・評価

旅のおわり世界のはじまり(2019年製作の映画)
4.5
ゆるくのんびりした内容を想像していたら、まったく違った。やっぱり黒沢清だった。「ホラー」のなかに「哲学」が見えた。で、少し早いけれど前田敦子に今年の最優秀主演女優賞をあげたい。素晴らしい。

旅行番組のリポーターをつとめるヨウコ。ロケ地はウズベキスタン。日本人スタッフ3人、現地通訳1人と、うまくいかない撮影を続ける。本当は舞台で歌いたいという思いをいだきながら、理不尽な撮影の要求にも応える。けれどもだんだんと不満は募り、心を閉ざしていく。そうしたとき、徘徊する街のなかであわれに捕らえられたヤギと出会う…

幽霊もサイコパスも出てこない。ただ、「ホラー」である。随所で「恐怖」を感じ、背筋が寒くなる。

正確には「不穏」というべきか「不安」というべきか。海外に行き、見知らぬ土地でひとりになったときに微妙に感じるあの感覚…

(以下ネタバレあり)
思いどおりにならず不満を募らせるヨウコに、しだいに気持ちが寄せられていく。自身を投影してしまう。そしていつの間にか、登場する人たちを信用できなくなる。ウズベキスタンの人たちもみんな胡散臭いように見えてくる。

ところが、現地の警察官がいうひとことで気づかされる。「なぜ我々の話を聞こうとしないのか」「なぜ我々を恐れるのか」。そう、恐怖を越えたところに理解があるんだと。そして、この感情が現在の世界を覆っているんだと。

ヨウコも気づいたのか、胡散臭いながらもウズベキスタン人の話にのり、結果としてあの場所にたどり着く。そこであの奇跡に遭遇し、感情があふれる。そして歌う。見ているこちらも感情があふれる…いやぁ、ホント素晴らしい!

不穏も不安も、また不運も不幸も、ひとの思いのなかから生まれてくるということか。黒沢清がこれまで描いてきた「不穏なもの」はここではこう表現されたか。
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