カルダモン

グラインドハウスのカルダモンのレビュー・感想・評価

グラインドハウス(2007年製作の映画)
5.0
日本での上映権が切れるため最後の35mmフィルム上映。ということで馳せ参じたグラインドハウスinシネマシティ。

上映権てのは一度切れると再上映するのはなかなか叶わないものなのでしょうか。権利関係はわかりませんが、少なくともスクリーンで観る機会が当分ないことは間違いなさそうです。いずれにしてもグラインドハウスを劇場で鑑賞するのは念願でして、プラネットテラーもデスプルーフもそれぞれ単品では観に行ったものの、グラインドハウス形式は約1週間の限定上映だったこともあり、どうしても都合がつかず泣く泣く諦めたのでした。その後DVD-BOXで後追いはしましたが、やはり劇場でないと物足りない。そんなわけで今回が最初にして最後のグラインドハウス体験。端的に感無量でした。

60〜80年代のアメリカにはB級C級の低予算映画ばかりを連続上映する小屋がたくさんあったそうな。私の中では劇場の椅子なんかズタズタに破けて、タバコの煙が充満してて、食べカスやら割れたビール瓶やらが散乱しているというような、ほとんどファンタジーな世界観が想起されてとてもウキウキするのだが実際にはどうだったのだろう。本作『グラインドハウス』は当時あった劇場の空気感をまるごと再現させるというコンセプトの元、R.ロドリゲスとQ.タランティーノがタッグを組み、二本立て上映の形式で上映されたある種の実験的試みでした。そのこだわりようは微に入り細に入り、とてもひと言では表せないほどの愛情がブチ込まれております。

例えば予告編。やっぱり映画館といえば本編上映前の予告編はとても大事で、だからグラインドハウスでは予告編も込みで制作されており、上映も予告編4本を含む191分の作品群となっています。どれもこれも香り立つバツグンのB級臭を放っており、うわー!観たい!となるのですが、しかしながらこれらはすべてフェイク。実在しない映画の予告編です。(※唯一『マチェーテ』はありもしない予告編から実際に映画化されております)

↓上映順は以下の通り↓

・マチェーテ(予告編1)
・プラネットテラー(本編1)
・ナチ親衛隊の狼女(予告編2)
・don't(予告編3)
・感謝祭(予告編4)
・デスプルーフ (本編2)


本編と並べても遜色ないほどの存在感を放つ予告編。担当した監督はロブ・ゾンビ、エドガー・ライト、イーライ・ロスという錚々たる顔ぶれ。B級に全身全霊を込めたA級の悪フザケ、ここに極まれり。

『プラネットテラー』と『デスプルーフ 』は単独の映画として別々に上映されておりますが、グラインドハウス形式の場合は〈劇場側の不手際〉によりフィルムのリールが一部紛失している(という体)。というわけで単品の方がランニングタイムが長いです。

映画館はタイムマシンであり、疑似体験装置。グラインドハウスは映画館体験そのものが尊いと感じさせてくれる、いわばB級の体を装った超A級映画。
自宅鑑賞ではなく、見ず知らずの集まった人たちと共に同じ空気を吸って笑ったり泣いたり悲鳴をあげたりする。それは映画の出来不出来とは別の価値で、スクリーンの中でカートラッセルがボコボコにされ、THE END の文字がジャジャーン!と出た時、ほぼ満席の劇場は拍手喝采になった。もう10年以上前の映画でここまで熱狂できるものはなかなか無く、改めて観客含めての劇場鑑賞が尊いと感じたのでした。



余談
シネマシティの劇場前では、初夏の陽気にピッタリなハワイアンミュージックフェスなるイベントが開催されており、世界観の差を目の当たりにした土曜日でした。

上映前のドルビートレーラーが「Stomp Perspective」で懐かしさ全開https://youtu.be/kOIjCOP5ljQ