冷戦下で引き裂かれた男女のメロドラマ
のはずだが。
確かに撮影は素晴らしい。1:1.37のスタンダード画面は、上下の空間を生かしたり斜め下に人物を寄せたりと、幾何学的な試みを連発していて、写真的。映画を観るというより、戦後のヨーロッパに取材した写真展を見に来た感覚。
だが、冷戦下での悲恋を描いたメロドラマとしては、いくらなんでも退屈。力を持ったモノクロ画面を見せるために説明を省略するという意図があるにせよ、どのような瞬間に惹かれ合い、どうやって結ばれたのか、それが一切描かれていない二人の顛末を見せたところで何も共鳴できるはずもないし、関心も持続しない。
そもそも、いくらなんでも感情がなさすぎる。共産圏の悲惨さというか暗さを描くだけの映画なんてちょっと擦られすぎているし、今更何だというのか。
ラストに唐突に現れるタルコフスキーオマージュはかなりあざといが、嫌いになれない。要所要所の曲選は良いし、グレン・グールドのゴルトベルクはいつ聴いても最高だが、だからといってこの映画が最高になる訳ではなかった。