Cisaraghi

ブラック・クランズマンのCisaraghiのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・クランズマン(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

クランズマンが何を意味しているのかもよく考えず、ほとんどアダムドライバーとスパイクリーというだけで観に行ったのだけれど、ビビリなので、サスペンス満点の潜入捜査が始まってからはいつバレるかとビクビクしてしまい、怖くて帰りたくなってしまった。何と無茶な!と思いながら見ていたのに実話が元だったなんて嘘みたい。しかも9ヶ月もバレなかったなんてホントですか…。
 しかし、俄に本当の話とは思えない何という映画向きの面白ネタ!と単純に喜べないのがヘイト犯罪の難しいところ。とりあえず、二人のロンが何とか危ない橋を渡り終えてくれてホッとした…のも束の間、エンターテイメントとしての結末だけでは終わらなかった。

KKKの主張をまともに正面から聞いたのは今回初めて。いや、想像以上に狂ってる…。デュークは、見た目がよくて人当たりもソフトで演説も上手く、普通の人に見えるだけに恐ろしい。そしてかの有名な『國民の創生』があんなヒドイ映画だったとは…。見なくては。
 夢が叶う…とうっとりするフェリックスの奥さん、ヤバ…。ホラー映画でも何でもなくこんな人が現実にいるから、ナチスだってあそこまでのことが出来たんだろうな、と思った。特定の民族を憎悪することを自らの存在理由にしている人たちは日本にもいる。そして、そういう人たちはフェリックスと同じように都合の悪い歴史を無かったことにしようとする。
 自身も公民権運動家だったというハリーベラフォンテ演じるジェローム・ターナー翁が語る、1916年のリンチの話が何ともおぞましい。生きたまま切り取られた体の一部がお土産として売られ、写真が絵ハガキとして売られた?もう何を言ってるんだ?という訳のわからないレベル…。

主役の、お父さんにあまり似てないジョン・デヴィッド・ワシントンがcoolでbeautifulだったのはもちろんだけど、この映画かなりアダムドライバーがシメていると思った、ファンだけに。ユダヤ人だけどあまりその自覚がなく、差別されることに対しても怒るより当惑している茫洋とした個性のフリップは、いつものアダムドライバーのようでもあり、そうじゃないようでもあり。(そもそもいつものアダムドライバーなんてあったかな?)白人マジョリティーから憎まれ差別され、かといって、白人だから安易に黒人の側につくことも出来ないユダヤ人独特の複雑さを体現しているように感じた。
 ビビリとしては、ビビることなく冷静に任務を遂行するフリップの肝の太さ尊敬。今回はけっこう背中で演技してましたね。黒人英語が全然出来ないシーンは笑った。

しかし、こんな映画で差別野郎を演じなければならない白人の俳優さんたちもタイヘンだな。決して楽しい仕事ではないだろうに…。ホワイトトラッシュのクズ白人を演じさせると天下一品なんて褒められたって嬉しくないだろうし。デュークを演じたトファー・グレイスさんは数週間ウツになってしまったそうだが、そりゃメンタルにくると思う。

アフロヘアのブラックビューティーたちの正面アップが、2、3人ずつ浮かび上がる映像が何度も出てきて、とても美しかった。まさにBlack is beautiful!黒人たちのファッションが非常に時代を感じさせる。

最後のピアノの音だけを伴って歌われるブルース、なんとプリンスの歌だそうだ。こんな歌があるなんて知らなかった。"Mary Don't You Weep" めちゃくちゃカッコイイ。ピアノの硬く尖った重い音がこの映画の締めくくりとして実に相応しかったと思う。掘り出し物。

コロラドスプリングス舞台の映画だと意識して見たのは今回初めてかも。でも撮影されたのはコロラドスプリングスではなく、ニューヨーク州のオシニングという、ハドソン川の右岸にあるNYに比較的近い場所らしい。山の中にみたいなところでデートしてたあそこはどこなんだろ?

それにしても、メジャー映画で現役大統領にケンカを売れるアメリカの健全な「言論の自由」は、今でもアメリカをアメリカたらしめている最も大きなもののひとつなのだろう。日本も見習いたい。

(追記)
他の方がこの映画をどういう風に見ていらっしゃるかなども知りたくていろいろレビューを読んだりするうちに、この映画はスパイクリーによる人種差別についての教育なのではないかと思い至った。とてもエデュケーショナルな映画なのだ、原動力としての強い怒りが根底にあるのはもちろんだけれど、それを闇雲にぶつけて爆発させている訳ではなく、どう作れば教育映画としてうまく機能するか考えてエンタメ要素も十分に取り込むなど計算されており、角度の違う視点を提供して教育の到達点である「各自に考えさせる」作りにもなっていて、さすが老師スパイクリーだな、と。
 自分もそうだし、他の方のレビューを読んでも感じたけれど、まだまだアメリカの人種差別の現状について世界で十分に知られているとは言い難く、教育の余地は十分過ぎるほどあると思う。人間にとっての普遍的なテーマでもある。
 先生であり教育だから、多少ケムたいのは仕方ないし、この先生が好きな生徒もいれば嫌いな生徒もいる。しかし、教育的な効果は先生の好き嫌いとは関係なく、この授業を受けた全員にあまねく及ぶのだ、濃淡はあっても。それが教育だから。私はこの先生嫌いじゃない、授業面白かったしたいへん勉強になったし、音楽の趣味もよいしね。
 ちなみにスパイクリー先生、ニューヨーク大学やコロンビア大学やハーバード大学の常勤教授で映画について教えているらしい。本当に先生なんですね!
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