KANA

存在のない子供たちのKANAのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.0

「両親を訴えます。僕を産んだ罪で」

…弱冠12才の少年が法廷にて。
こんなショッキングなオープニングがあるだろうか?

不法移民が集まるレバノンの貧困地区の過酷な日常を、実際に同様の境遇にある当事者たちが演じたドラマ。

カメラは終始、少年ゼインの気持ちに寄り添う。
学校には行けず、朝から晩まで必死に働く。
路上で物を売り、重い荷物を運び、時には犯罪すれすれの仕事も。
荒んだ心に癒しを与えてくれる唯一の存在だった妹が大人の事情で強制的に結婚させられたことから両親と衝突し、ついに家を飛び出す…

妹が初潮を迎えたことを発見したゼインの思いやりあふれる素早い対応、
お守りをすることになったエチオピア難民の赤ちゃんを母親さながらにどこまでも守り抜こうとする優しさと逞しさ…自分自身を守るのも大変なのに…
涙が溢れてくる。

その赤ちゃんの純真無垢な表情や仕草と、ゼインの乾いた心と空虚な眼差しのコントラストには胸がギュっと締めつけられるし、どちらも愛しすぎて抱きしめたくなる。

終盤の"再会"はホッとする嬉しい展開である一方、ゼインは…
ラストカットの微笑みは彼の端正な顔立ちが映えて美しいけれど、ここまで観てきた者にはそれが心からの表情には到底見えない。
身分証のためでなく、スナップショットでも屈託ない笑顔あふれる日々になればどんなにいいことだろう…

世界中で難民問題が深刻化する中、小国の片隅で"見えない存在"として扱われる子供たちをしっかりと可視化し、クローズアップした本作はとても意義深いものだと思う。
ゼイン役の子の圧倒的存在感によるところも大きいし、やはり自分とは全く次元の違う暮らし・生き方のリアリティーに終始観入ってしまった。
「世話できないなら産むな!子供を作るな!」と子供自身に言わしめた衝撃と情けなさ。
子供たちが「生まれてきてよかった」と思えるように、どの命も尊厳が保たれるべきだし、
彼らが将来に希望を持てる世の中でなければと強く思わされる。
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