カズナリマン

ドッグマンのカズナリマンのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
3.9
ありそーー!イタリア村社会いじめられっ子物語!

もしもあなたの村に、手に負えない札付きのワルがいたら?

「ゴモラ」の鬼才マッテオ・ガローネが描くのは、イタリアの小さな村でそんな「札付きのワル」シモーネに目をつけられた小心者、マルチェロのお話。こーゆーどうしようもないシチュエーションに置かれた弱者の話をみると「うわーーありそう…」とガッツリ主人公に憑依してしまう自分としては、苦しいけどとても身につまされる鑑賞体験となりました。

すごく良かった!というのも変な感想ですが、こうゆう「世界中どこでもありそうな話」を息苦しいリアリティをもって語れる作品って貴重だと思うんですよね。だからやっぱり「良かった!」んだと思います。

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●一応ストーリー

イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬を愛する温厚で小心者の男マルチェロは、「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営している。気のおけない仲間たちと食事やサッカーを楽しむマルチェロだったが、その一方で暴力的な友人シモーネに利用され、従属的な関係から抜け出せずにいた。そんなある日、シモーネから持ちかけられた儲け話を断りきれず片棒を担ぐ羽目になったマルチェロは、その代償として仲間たちの信用とサロンの顧客を失ってしまう…

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ほぼ全編シモーネに小突かれる(精神的にも)マルチェロの針のむしろを共有させられる観客ですが、救いがあるとすれば、マルチェロが「ただの犠牲者」ではないところでしょーか。

彼は剛腕ワル、シモーネに使われ、巻き上げられ、利用される慰み者ではあるのですが、シモーネの他の犠牲者にはとくに罪悪感もなければ、分け前さえ受け取る小悪党。愛する娘にはやさしいし、動物には異常にやさしいのですが、心のどこかでシモーネからの友情を期待してしまっているマルチェロへの感情移入はほどほどでブレーキがかかります。だから二人の関係がやがて壊滅的な展開を迎えるクライマックスも、そこまで心を傷めずみていられます。

逆に言うと、もっとマルチェロの気持ちによりそえたら、ドッグマンはさらに観客の感情に訴える傑作になったのかも。

良い映画だったのですが、マルチェロが正気に目覚めてくれる瞬間(彼の大切なものが損なわれる事件などにより)をずっと待ち望んでいた観客として、それが叶わなかったのが唯一の残念ポイント。

とはいえ、あの「いつマルチェロに壊滅的なことが起こるのか?」という雰囲気がずーーーーと持続する嫌なムードは、なかなかの映画体験!オススメします!

最後にひとこと。

「もぅ!マルチェロ!しっかりせい!!(パンッパンッ←面を張る音)