もるがな

アップグレードのもるがなのレビュー・感想・評価

アップグレード(2018年製作の映画)
4.0
妻を殺され、自身も四肢麻痺に陥った男が脊髄にチップを埋め込むことで復讐へと動き出す!

低予算ながらも随所に細かなアイディアの光るSFアクション。AIチップによる脱力コマ送りとでも言うべき大仰な超人アクションは新境地でありながら、映画全体を包む空気はどこか陰惨で薄暗く、よく言えば緊迫感はあるものの、不穏な劇伴も相まってどこかカタルシスに振り切れず、要所要所で心理的にブレーキがかかってしまうのが惜しい所。しかし脚本と構成はこなれており、王道ではあるが唸らされるシーンも多く終始退屈することはなかった。1時間40分という短い中でしっかりとまとめ上げたのは驚嘆に値する。

全体的に近未来描写はやや歪つで、世界観設定の説明がやや不十分ではあるのだが、自動運転の車や反テクノロジーの危険スポット、アナログゆえの落とし穴など、世界観設定の骨子を小ネタによるアイディアで補強しており、エンタメ性は十二分にある。

俳優陣の演技も素晴らしく、特に主人公が文字通り「アップグレード」した後の行動がロボットのような動きになっていたのは不覚にも感動してしまった。前述のアクションシーンはやはり本作を語る上での大事な山場であり、一見すると万能に見えるAIでも意外と弱点が多く、それが話に捻りを加えていたのはまさにアイディアの勝利だろう。

惜しむらくは壮大な陰謀SFの香りが前菜程度で終わり、やけにこじんまりとまとまってしまった点だが、これは予算の限界であり、これ以上はもう一段上のスケールと尺の物語になってしまう。逆に言えば広げた風呂敷が小さかろうとしっかり畳めているのはポイントが高く、気楽に見れるSFのB級アクションの中では脚本も含めて出色の出来であることに疑いの余地はない。
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