カツマ

アメリカン・アニマルズのカツマのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
3.8
その一線を越えて初めて、見ていた景色が一変していたことに彼らは気付いた。だが、もう戻ることなど出来はしない。踏み越えた一線は遥か遠くへと消え去り、パニックは増殖の一途を辿っていった。ここにあったのはある一線までは後戻りが出来た犯罪。よくある青春時代の倦怠期から吐き出された汚物のような出来事が、無邪気だった4人の姿を蜃気楼のようにユラユラと映し出していた。

冒頭にある通り、この映画は『実話に基づいた物語』ではなくて、『実話の物語』だった。そのため、実際に犯罪を行なった4人やその家族へのインタビューが頻繁に挿入され、序盤は完全にドキュメンタリーの程をなす。事実とシンクロさせながら、その事件の真相へと肉薄していく、独白のような犯罪白書がここにはあった。

〜あらすじ〜

待ち望んでいた大学生活には何もなかった。退屈な大学生活に飽き飽きしていたスペンサーは、過去のアーティストに想いを馳せながら、何か特殊な体験をしなければと思うようになっていた。
友人のウォーレンに関してもそれは同じで、二人は退屈さを凌ぎながら青春時代をのらりくらりと過ごしてきた。
そんな折、スペンサーは大学図書館に所蔵されている時価1200万ドルの画集の見学時、その管理が司書一人に一任されていることを知る。それをウォーレンに話して聞かせたところ、二人で画集を盗み売り捌いてしまおうという突拍子も無い計画が浮上してきた。だが、二人ではどう考えても人手が足りないと踏んだウォーレンは、旧友のエリックとチャズに声をかけ、4人での犯罪計画を模索し始める。ウォーレンはオランダまで飛び、下取り先を確保する入念さを見せつけ、あとは犯罪を実行に移すのみとなったのだが・・。

〜見どころと感想〜

この作品は実話であることを強く意識した作りになっていて、物語の進行の合間にナレーションのような本人たちの独白が挿入される。前半はむしろドキュメンタリータッチ、後半は逆に映画としての醍醐味を感じさせる嘘みたいな本当の話が軽やかなスピード感と、バクバクとした緊張感と共に波打ちながら、すでに起こってしまった事件の顛末へと突撃していくこととなる。

そして何と言っても最大の見どころはリアリティを追求しきった事件当時のゴタゴタ具合の描き方だろう。何もかも予定通りにいかない不完全さこそが、この映画を特にリアルに見せていたと思う。
本人たちと演者たちは全く似ていないのだが、それをあまり気にはさせない作りになっている。バリー・コーガンのどこか煮え切らないオーラが本人以上に本人の感情を示唆しているようで、今となっては踏み越えるべきではなかったことを痛感するしかない、現在の本人の叫びが聞こえてくるようだった。

〜あとがき〜

思いのほかドキュメンタリーを重視していたのが一番の驚きで、ドラマチックな要素はクライムサスペンスとしては少なめとなっています。
恐らく、ドキュメンタリーの部分をエンドロールで明かすぐらいにしておけば、この映画はもっと面白くなったと思います。ですが、真実とのシンクロ率の高さによって、空疎な理由で犯罪に手を染めてしまった若者たちの愚かさと自戒の念を映像化することこそが、この作品の一つの意義でもあったのかなと思いました。

鳥人間のアートワークは怪しさ満点でお洒落でもあったので、もう少し活躍させてほしいなとは思いましたけれど(笑)
カツマ

カツマ