カツマ

ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうたのカツマのレビュー・感想・評価

4.2
人生そのものが歌になる。その音楽は想いを乗せて二人の人生を新たなスタートラインへ連れて行った。そこに剥き出しの感情が乗車して、音楽は心揺さぶる歌となる。どんなに崖っぷちでも、将来が不安だとしても、音楽は必ずそばにいて見守ってくれる。だって、そこには歌うことでしか伝えられない想いもあるから。音楽で繋がり、音楽で確かめ合った親子が手を取り合いながら、一つのゴールテープを切り、またその先へと走り出していく。

NYの外れにあるレコードショップを舞台に、そこの店主と彼の娘、二人による音楽を主人公にしたかのような物語。二人の作ったオリジナルソングが劇中を繊細に彩り、その時々の想いをセリフに代わって紡いでいった。MitskiやCigarettes After Sexも劇中歌として起用され、何とWilcoのジェフ・トゥイーディもカメオ出演していたりと音楽の愛がいっぱいに溢れた優しいお話でした。

〜あらすじ〜

ニューヨークのはずれでレコード店を営むフランク・フィッシャーは、かつてはミュージシャンとして大成する夢があったが、今はそれは脇に置き、レコード店の店主として一人娘のサムを育ててきた。しかし、このご時世、レコード店の経営は悪化し、フランクはついに閉店を決断する。
一方、サムは医学生となるため、フランクの元を離れて西海岸へと旅立つことになっていた。
そんな折、フランクは音楽の才能に溢れたサムに何とか音楽を作らせようと躍起になり、その過程で親子の共作ソング『ハーツ・ビート・ラウド』が生まれた。サムの思春期を反映したこの曲をSpotifyにアップロードすると、すぐさまプレイリストに載るほどとなる。フランクはサムに二人でバンドを組もうと持ちかけると、彼女はイマイチ乗り気ではない様子で・・。

〜見どころと感想〜

ジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』や『Once』を彷彿とさせる音楽映画の新定番と呼びたいほどの作品が誕生!素晴らしくクオリティの高いオリジナルソングの数々は、劇中のライブシーンで感動的に花開き、そのミニマルな世界を優しいメロディで包んでいった。決して幸せな出来事ばかりじゃないからこそ、親子の歌がこんなにも沁みてしまって、その伸びやかな歌声にいつしか涙が溢れてしまった。

キャストではサム役のカーシー・クレモンズの歌声が素晴らしく、彼女の声色が曲のクオリティを何倍にも引き上げていたと思う。普段は名脇役を演じることの多いニック・オファーマンが主演に、レコード店の賃貸のオーナーとしてトニ・コレットも登場。
だが、それらの出演者を差し置いても、この映画のメインはやはり圧倒的に音楽だった。お店に飾られたレディオヘッドやラナデルレイのLP、店主のオススメのアニコレ、どれもこれもが音楽ネタの宝庫。劇中歌に耳を澄ませながら、ラストのライブまで親子の作る音楽という名の人生に、いつまでも心揺さぶられていたい作品でした。

〜あとがき〜

前述したジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』に近いテーマと構造を持っていますので、この手の作品が好きならば強くオススメしたい作品です。

音楽は作れる、歌える、届けられる、の過程から描きつつ、それらを集大成としてのライブで締める展開は王道だけど最高!音楽映画の定番だけれど、そんな王道感が何とも愛おしい作品でもありましたね。
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