茶一郎

アウト&アウトの茶一郎のレビュー・感想・評価

アウト&アウト(2018年製作の映画)
3.6
 『カルロス』!『JOKER』!『鉄と鉛』!全国の大きな男の子が喜ぶような作品がフィルモグラフィに並ぶ邦画ノワール・銃撃戦の名手きうちかずひろ監督の18年ぶりの新作映画と聞くと観ずにはいられない『アウト&アウト』。

 もちろん木内監督が原作を執筆した『藁の楯』の映画化などもありましたが、本作『アウト&アウト』は醸し出すオーラが別物。ノワールとハードボイルド映画は男の「顔」だけで持っていくんじゃ!という気合いが感じられる一本でした。ちなみに主人公の私立探偵・矢能は、どうやら『鉄と鉛』の矢能と同一人物、つまり本作も『鉄と鉛』の続編に当たる作品ですが、全く『鉄と鉛』を観ていなくても楽しめますので、ご安心下さい。

 とは言うものの、この『アウト&アウト』はノワールの入り口から入り、コーンゲームモノの明快な出口から帰る、全国のシネコンで広く上映されるのも納得な宣伝文の通りのクライム・エンターティメントです。
 映画の推進力の8割は主人公・矢能を演じた遠藤憲一さんの「顔」と「タメ」で出来上がり、特筆すべき残りの2割はヒロイン(?)・栞を演じた子役の白鳥玉季さん。こちらは宣伝文「七歳の少女の相棒は元ヤクザの男」とは少し違う、劇中の栞(七歳の少女)の立ち回りは「パートナー」というより「カカア」ですよ。小さい大人な女性に怒られるのが好きな大きなお友達必見の映画『アウト&アウト』です。

 非常に間口が広い作品である一方、やはり、きうちかずひろ監督はまだ映画作家としての腕を鈍らせてはいないという印象で、矢能が巻き込まれる事件が暴力から始まり、雪だるま式に暴力を重ねていく様は、些細な事件から始まる大暴力劇『JOKER』、「やった」、「やり返す」をリピートする暴力の無間地獄を描いた『BE-BOP HIGHSCHOOL』(1994)を想起しました。
 そしてこの「いつになったら止まるの!?」な暴力の地獄にケリを付けるのが遠藤憲一a.k.a 矢能です。過去作のような派手な銃撃戦は無いものの、ここは『スティング』的コーンゲームモノの爽快感で晴れやかに劇場を出させてくれます。きうち作品では常にエンドロールや映画の終わりで、暴力のやり合いの最中、末端で利用され亡くなった若者への「追悼」を映し、より暴力の結果と責任を強調しますが、本作『アウト&アウト』も文字通りな「追悼」で幕を閉じます。この終わりにこそ、きうち作品の暴力に対する誠実さがあるのです。
茶一郎

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