ぐち

記者たち~衝撃と畏怖の真実~のぐちのレビュー・感想・評価

3.3
地味だけど堅実で誠実な映画。

この題材で事実の話なのだから劇的な盛り上がりは少ないしヒーロー映画のようにはならないんだけど、それを無理に盛り上げてヒロイックに酔いしれないのがこの映画の誠実さだなと思った。

しかし映画として面白く見せるために、尺を90分とコンパクトにして、テンポよく編集しあちこちに軽妙な笑いをちりばめるという手法が上手い。

ただそのせいで良くも悪くも引っかかりの少ない作品になったかなとは思う。
ネタ集め裏どりの苦労やナイト・リッダーだけが孤立してる感、記者たちの自分は本当に正しいのか?といった苦悩や孤立無援な不安感などが薄く感じた。外圧も子供のイタズラみたいなメールだけだし…
まぁこの映画を見る多くの層がリアルタイム世代なので、あの頃の世間の空気感はわかるでしょってことなのかもしれないけど。

恋愛パートは最初はとってつけたようでノイズだと思ってたけど、女性キャラは不安視してたほど恋愛ワールドNPCというわけでもなくちゃんと意思と人格のある人間として描かれてたので安心した。役割としては恋愛要素や女っ気を入れようというよりは、観客に寄り添う視点としてのキャラという感じ。観客と似たような立場・知識量の人間を出してわかりやすく説明する役というか。ちょっとその役割が前面に出すぎてる気もするけど。

あの頃大勢いただろう 愛国心に駆られて軍に志願した若者たちの視点もそうだけど、恋愛パートも物語を単調にしないためのアクセントとして機能してたと思う。
家族シーンだとどちらかというと「安定」になるから、キャラや観客の好奇心を揺さぶるなら記者が他人と絡んだ方がいい。他人がスムーズに主役の記者に絡むとなると…男女の出会いってのがオーソドックスなやり方なのかなぁと。
できれば女性キャラをただの恋愛要素にするより同僚記者とかにして欲しかったけど、実話ベースの話で短尺ならばキャラを実在男性少数に絞るのは仕方ないか。
もっと尺が長ければ違ったやり方があるしそっちの方が良いけど、『短く見やすく広い層に届く作品』を目標にするには適切な手法じゃないだろうか。

もっと手っ取り早い手法はヒーロー映画のように過程や結末を劇的に演出することだけど、この映画はそうしなかった。
実在の二人の記者は『ファクトを問い続け、政治家の前に専門家に意見を聞くことの重要性を語っている』んだとか。
そんな誠実なジャーナリズムを語るにふさわしい、誠実な映画だった。

この映画はジャーナリズムについて語ってるけど、メディアは権力だけではなく視聴者におもねる。劇中にもナイト・リッダーの記事を載せない新聞が理由として「読者は求めていない」というセリフが出てくる。
テレビは視聴率が取れるニュースや意見に傾く。
つまりあの頃のニュースの偏りは決して権力者と怠惰なジャーナリストのせいだけではない。我々がそれを求めた。
もちろんあの時代のアメリカだけの話ではない。
ぐち

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