耶馬英彦

銃の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

(2018年製作の映画)
3.5
 予告編のとおり、コルトパイソン357マグナムという強力な拳銃を拾った若者が、銃によって変わっていく姿を思考実験的に描いている。主人公の行動の描写のそこかしこに本人のモノローグを挿し込むことで、努めて冷静で客観的であろうとする理性と、拳銃という強力な暴力装置を手にしていることの情緒的な不安定さを対比させている。
 拳銃は所持しているだけで罪に問われるから、警察官を見ると、所持がばれて罪に問われる可能性が頭に浮かぶ。一方で、急所に向けて発砲すればほぼ確実に致命傷を負わせることができるから、クズみたいな人間を見ると、撃ち殺してしまおうかと思う。いずれも平静でいるのは難しい。
 逆上がりが出来るようになった子供は、何度も逆上がりをして見せる。人間は何かが出来るようになると、それを試してみたくなるのだ。よく切れる刀を手に入れれば辻斬りをしたくなるし、強力な拳銃を手に入れれば威力を試したくなるものなのである。

 村上虹郎がなかなかいい。人を殺せる武器を持っているという不気味な自信を持ったり、撃てば弾がなくなるし、人に見られたらただでは済まないことを考えて苛ついたりする振れ幅を上手く表現している。拳銃を撃ちたいが撃てない、持っていることを言いたいが言えない。拾った拳銃を冷静に管理出来るつもりが、いつか拳銃に振り回されるようになってしまう。

 拳銃というのは素手に比べれば強力ではあるが、実はあまり大した武器ではない。なかなか当たらないし、急所を外せば反撃される恐れもある。圧倒的に勝つためにはもっと強力な武器が必要だ。そこで武器開発のエスカレーションが始まる。機関銃、グレネード、ロケットランチャー、大砲、戦車、戦闘機とエスカレートしていき、最後には核兵器に辿り着く。
 これまで人を殺傷する目的で核兵器を使用したのはアメリカだけだが、核兵器を持っている国はアメリカ以外にたくさんある。それらの国が、逆上がりが出来るようになった子供のようにならない保証はない。目的も使命もなく生まれてくる人間とは違って、武器は人を殺すために生み出された道具である。持っていると、武器の目的に人間が影響されてしまう。トランプが北朝鮮に対して核兵器のボタンの大きさを言うのは、チンピラがポケットの拳銃をちらつかせるのと同じレベルである。何かあれば引き金を押すのだ。
 コルト社はアメリカの銃器メーカーで有名なゴルゴ13の愛用するM16というライフルを製造している。今年の春にフロリダの高校で起きた銃乱射事件ではM16の民間用であるAR-15が使われた。乱射した19歳の犯人がライフルを手に入れなければ、17人も死ぬことはなかっただろう。銃が人間を狂気の行動に駆り立てたのだ。
 いまはまだ起きていない核戦争だが、人類が核兵器を所持している以上、この先いつ起きてもおかしくない。核兵器は大量に人を殺戮する目的の道具だからである。道具はその目的によって人間を支配する。
耶馬英彦

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