Ren

凪待ちのRenのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
3.5
概ね楽しめた。『THE 有頂天ホテル』『西遊記』くらいでしか知らなかった香取くんの演技だけど、彼のクズっぷりがとても良かったし、ギャンブル狂映画として興味深かった。

気持ちがギャンブルに傾いたときに、カメラもぐわーっと傾いていくのが分かりやすくてgood。中毒の人ってこんな感じなのかなと妙に納得してしまうおもしろ演出。
競輪にのめり込み負のスパイラルに陥った男の堕落と喪失、再生のようなものへじわじわと迫っていく感じが白石和彌。

主軸が郁男のヒューマンドラマにあるのは理解できるのだけど、物語的に付随してくる「家族」「事件」の描き方はちょっとあっさりし過ぎていた感もなくはなく。底辺の人間の幸せなことが起こらないストーリーにダークサイドの重松清みを感じたのだけど、割とさらっと観られてしまったのは、人物の掘り下げ・心情描写が足りなく感じたからかもしれない。

舞台を石巻にしたのも、おそらくは郁男の再生と地域の復興をかけたからだと思われる。金銭的に、立場的に、身体的にボロボロになりながら毎日を掻い潜る彼を見てきたからこそ「死んでいないうちは生きている」という真理がズンと響いてくる。
ギャンブルに狂い癇癪を起こす毎日をシケの状態だとしたら、心穏やかな凪の毎日に希望を見出すことこそが人生かもしれないということを端的に表現したタイトルの秀逸さがじわじわ広がる作品だった。その凪はシケの日々の下に存在することを視覚的に示したラストのある演出も素晴らしい。
これは、3.11以降を生きる私たち全員に向けられたヒューマンドラマなのかもしれない。

このテの映画でまた西田尚美か....またリリー・フランキーか....とは思ったが、やはり香取くん、こんなオーラもギンギンに出せるんだと気付けたのが一番の収穫。もっと彼を主演にした作品を観たい!
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