トモ

凪待ちのトモのレビュー・感想・評価

凪待ち(2019年製作の映画)
4.7
良かった

触れ込みではクズの転落人生映画と聞いてたけど、予想以上に「家族」について、そして復興途中の街とそこに生きる人達、踏み止まり再生した人達について描かれていた

自分ではコントロールできずにどうしようもなく堕ちていく主人公郁男を描きながら、それでも郁男を繋ぎ止めている何か

舞台は復興途中の街だが、疲弊してまだ回復できていない街や人の様子、それぞれが今を生き、余力のある人は他人を支えてきたという震災からの過程を滲み出させていたというのがまず秀逸

そして堕ちていく郁男と対比させるように存在する元DV夫やおじいちゃん

郁男と亜弓と美波の前に現れた元DV夫の竜次が幸せをひけらかすようにしていたが、実は「何か」によって本当に変化を遂げていたという具体的には描かれていない部分や

亜弓の父(美波の祖父)も堕ちていく人生を亡き妻に救われていたこと

血の繋がらない人同士が家族になっていく様や同じ境遇だからこそ分かる苦悩

育まれていく家族の絆や人間模様だけを抜き取ってもそれだけで作品が出来てしまうほど濃密

そしてもう1人、郁男と対比させる人物として序盤と終盤に出てきた元同僚

同じ状況から始まった二人が違う結末を向かえる

それは各々がしていく選択や出会いによって状況が変わる、という人生そのもの

選択を誤らなければ亜弓を失う事だってなかったはずだし…

そういうやるせなさを余韻として残す作り

丁度同じ日に観た別の映画の台詞に「悪い人間はいない、状況が悪いだけだ」っていうのを思い出して鳥肌

描かれていなくても感じ取れる奥行きがあるのがこの作品の素晴らしいところ

でそれがあっての白石節

ケンカのシーンが凄い、観てて心配になるくらいリアル、裏社会の人達の怒号

全部ひっくるめて震災を乗り越えてきた人達

リアルを追求しながら、作品としての着色部分もバランス良く挿入している

香取さんは個人的には今まで観た作品で一番良かったと思う

そして個人的ファンである恒松祐里ちゃん、繊細で難度の高い役を見事に演じきっていた、20歳ながらキャリア12年、彼女はまだ全てを見せていないと思うし今後にも期待、そしてそろそろ賞をあげて欲しい

西田尚美さん、吉澤健さん、音尾琢真さん、リリー・フランキーさん始め俳優さん全てがとにかく素晴らしい、人物を丁寧に描いている作品だからこそ俳優さんの演技が堪能できる

エンドロールの静けさも独特

本当に素晴らしい作品
トモ

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