芋けんぴ

アルキメデスの大戦の芋けんぴのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.3
予想外。これは面白い。

どんでん返しじゃないけど、クライマックスと思えた決定会議後に待ち受ける「そうだ……こいつは」という絶望に似たため息と、「そう来るか」というツイスト展開に鳥肌が立った。

議論で場を制したものが勝者、とするなら本作における勝者は間違いなく平山忠道だろう。

決して敵を侮ることなく、論理に破綻がなければ改竄を認め、才能を賞賛し、潔く敗北を受け入れ、しかしそれさえも自らの信念を達成するための糧として、自分に敗北を齎したものを同志と呼び引きこむ。

なかでも主人公・櫂が内に秘めた矛盾を看破したシーンはドラマとしても白眉だ。

平山の思想は「ウォッチメン」のオジマンディアスにも通じるものがある。

より多くの犠牲を回避するために「滅びる」ことを前提とした怪物を、英知を結集して作り上げる。

だが冒頭で大和に乗り込んだ多くの若者が無残に死んでいくシーンを見せられた観客は平山の思想に共鳴できない。

戦争は絶対に避けなければいけない。

しかし、そう言い続けて半世紀日本はそのための世界に通用するディベート力とか外交力をちゃんと身につけてきたのだろうか。狡猾に振る舞えてきただろうか。

正しさだけでは議論には勝てない。

それは何も櫂だけのことではない。

ロビー活動や裏工作や圧力を「卑怯者のすること」と避難し、正しさ、正当性だけで頑固に戦おうとすることは実は空母や航空機を否定し、戦艦だけで戦おうとした保守派の軍人たちと何も変わらないのかもしれない。
芋けんぴ

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