カツマ

ふたりの女王 メアリーとエリザベスのカツマのレビュー・感想・評価

3.8
史実という名の悲劇がズッシリとのしかかってくる。どんな綺麗事も通じない、歴史に刻印されたある女性の運命。彼女の名はメアリー。イギリスの正統なる血筋の源泉であり、女王として歴史にその名を刻んだ人物だ。だが、その治世は悲劇と血にまみれ、裏切りの連鎖が王としての孤独を浮き彫りにする。動乱と非業を上塗りしてもなお女王としての尊厳を失わなかった、一人の女性の生きた証が今ここに。

シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビーという二大人気女優を擁して、中世のイギリス大陸にその名を刻んだ二人の女王が燦然と並び立つ。ジャケットでは二人がシンメトリー的な立ち位置で示されているが、実際にはシアーシャ演じるメアリーに焦点を合わせた物語であり、あくまでマーゴット演じるエリザベスはサブキャラの一人と捉えるべきだろう。この時代に女性が王として生きる苦しさ、悲しさを抉り出すように描き出し、歴史の波間でもがいた女性たちの姿から目を逸らすまいとする作品だ。

〜あらすじ〜

1561年、夫であるフランス王フランソワ二世の死を受けて、メアリー・スチュワートはフランスからスコットランドへと帰郷した。メアリーは王家スチュワートの正統なる血筋であり、帰郷と共にスコットランド王として即位した。時代はイングランドの女王エリザベス1世の治世であり、その絶大な影響力はスコットランドまで及ぶほどとなっていた。
だが、エリザベスは子を持たず、跡取りも望めない身。対してメアリーはまだ若く、再婚することで後継を残す未来もあった。メアリーはその血筋と若さを武器にイングランドの王位継承権を主張し、エリザベスに真っ向から対峙してみせる。
そこで浮上してきたのがメアリーの再婚相手の問題だった。そこへイングランドの貴族の血統でもあるダーンリー卿ヘンリーがメアリーの目に留まる。彼との間に子を産むことができれば、メアリーの未来は安泰と言ってもよかったのだが・・。

〜見どころと感想〜

エリザベスとメアリーの実話は世界史の授業でも登場してくるほどにメジャーな史実であり、今作もそこから大きく逸脱してはいない。だが、メアリーの愛人とされるリッツォオを男色の設定にしたりなど、歴史への新たな解釈も捉えられる部分もある。物語はメアリーの統治、世継ぎ問題、エリザベスとの邂逅のパートで進み、俗物たちに蹂躙されゆくメアリーの苦難の人生を克明に描き出している。

そんなメアリーであるが、シアーシャの凛とした美しさが彼女の強さと瞳の輝きをいつまでも失わせなかった。彼女は最後まで女王であり、偉大な王家の血筋。メアリーへの深い尊厳を湛えた作品だったのは間違いなかった。対称的にエリザベスを演じたマーゴットは溌剌とした魅力を押し留め、老いゆくエリザベスを崩れそうになりながらも演じた。そんな二人の存在感がこの作品の説得力を幾分引き上げているようにも見えた。

歴史に翻弄され、男たちの政権争いに巻き込まれて、激動の人生を終えた女性、メアリー。今でも大英帝国には彼女の血筋が残っていることが、彼女が勝者であったことの何よりの証だろう。その瞳がどこまでも深い未来を予言するかのように、彼女の生き様は伝説として残り続けていく。

〜あとがき〜

鑑賞前はメアリーとエリザベスの女同士のバトルのような作品なのかと思っていましたが、実際にはメアリー・スチュワートの人生が圧倒的にメインとなっています。それもあって、ストーリーの軸がブレておらず、歴史大作にありがちな分かりづらさは皆無。完全メアリー主観の作品であり、彼女の感情が乗り移ったかのような一本でしたね。

やはり輝いていたのはシアーシャ。彼女は今後何本の名作を生み出すのか。すでに若くして名優と呼ばれるに相応しい彼女の活躍を、今後も追いかけていきたいと思いますね。
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