ひろぽん

岬の兄妹のひろぽんのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
3.8
とある地方の港町を舞台に、足に障害を抱えリストラされたばかりの兄・良夫は、自閉症の妹・真理子と2人暮らしをしていた。妹の失踪癖に手を焼いていたある日、夜になっても帰ってこなかった妹が町の男に体を許して1万円をもらっていたことを知る。そして、良夫は罪の意識を持ちながらも、生活のためにと妹に売春をさせ、自ら客の斡旋を始める。足に障害のある兄と自閉症の妹が貧困に苦しみながらも、不器用ながら生きていく姿を壮絶な形で描いていく物語。


冒頭から重苦しい雰囲気が漂う。いかにも現実世界にいそうな兄妹が、貧困に苦しみながらも、藁にもすがる思いで毎日必死に生きようとする姿が見ていてとてもつらかった。

足が悪くてリストラされてしまったみすぼらしい格好の良夫と、いつも楽しそうにしている自閉症の真理子。

窓にはダンボールが貼られており、いつも光が入らない真っ暗な部屋。家賃や電気料金を滞納してしまい、支払いに追われる毎日。終いには電気を止められてしまうなど、絶望的な毎日を生きる兄妹の生活には希望の明かりが見えない。

そんな悪い流れも自閉症の妹を売春させるところから人生に大きな変化が訪れていく。

売春の斡旋で良夫は罪悪感に苛まれながらも、楽しそうに仕事をする真理子を見ると、ただお金欲しさだけにやらせているようには思えなくなる。

これまで見ることのなかった嬉しそうな真理子の表情。良夫が真理子との結婚をお願いした小人症の青年といる時はいつになく嬉しそうで幸せそうに見えた。自閉症で何も分かっていないのかと思っていたが、やっぱり1人の女性なんだと気づかされた。

知的障害者に売春をさせることは良くないと分かっていても、真理子の嬉しそうな表情を見ると何が正しいのかよく分からなくなる。

良夫の親友で警官の溝口は、生活保護なり何かしらの福祉制度を良夫に教えて助けてあげたら救えたんじゃないかと思う。一時的にお金を貸すだけじゃ長期的に見ると何の救いにもならない。

溝口が売春の斡旋を始めた良夫に、
“お前は足が悪いんじゃないんだよ!頭が悪ぃんだよ!”
と罵るシーンが印象的だった。
本当に怖いのは無知なことなのかもしれない。

岬でのラストシーンの良夫の電話相手は誰だったのだろうか?溝口なのか、それとも客なのか、はたまた小人君なのか?
観客に委ねられるような気になる終わり方だった。

いじめられていた童貞学生くんが真理子との関わりで希望を持てたり、真理子の嬉しそうな言動を見ていると、自分の倫理観が崩壊しそうになる。

胸糞悪い映画はあまり好きではないが、この作品はメッセージ性があって良かったと思う。そして、うんこ投げる映画は初めて観た。ダンボールを撤去した部屋はキラキラ希望に満ち溢れていて気持ちが良かった。

松浦裕也の熱演も凄かったが、和田光沙の自閉症の演技が本物のようで素晴らしかった。生々しい映画でやるせない気持ちにさせられる。
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