ひろぽん

それでも夜は明けるのひろぽんのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.6
1841年のニューヨーク州サラトガに暮らすヴァイオリニストの自由黒人であるソロモン・ノーサップは、愛する家族と友人に囲まれ、幸せな日々を送っていた。だがある日、彼は騙され拉致されてしまい、奴隷市場に売られてしまう。名前も人間としての尊厳も奪われ、奴隷として大農園主に買われ、強制労働を強いられる。12年間もの間奴隷として白人に虐げられながらも誇りを失わなかった黒人男性の壮絶な人生を描いた実話の物語。

実在の黒人男性ソロモン・ノーサップの実体験を綴った『Twelve Years a Slave』を原作とした伝記映画。


今から180年程前のアメリカで問題となっていた黒人奴隷制度。人身売買、暴力、レイプ、人種差別、強制労働等の黒人たちが虐げられてきた目を背けたくなる様な歴史が淡々と描かれ、実際にその現場で体験している様な感覚になる。

アメリカ北部では黒人も白人も対等に扱われ同じ社会で暮らしているのに対し、アメリカ南部では主人と奴隷という主従関係で人権を無視したモノの様な所有物としての扱いを受ける。同じ国なのに肌の色が違うだけでまるで別世界のような扱いになる理不尽な社会。

「奴隷制度」という大義名分を得た瞬間、人間は同じ人間に対してどれほど非人間的な行動を取れるのかを暴いた物語ということで、虐げられる黒人奴隷の理不尽な日常の苦悩や葛藤が丁寧に描かれる。

売り物として全裸で並べられての売買、白人の所有物としての強制労働、調教として皮膚が引き裂かれるまでの鞭打ちや殺すための首吊り、家畜の餌のような食事や寝床、性の道具としての対象等といった非人道的な扱いは見るに堪えなかった。

あくまでも人の言葉を話すペットのような存在として黒人を扱い、可愛がる人やそうでない人など、扱いは奴隷を買った主人次第で環境が大きく変化する。肌の色の違いだけで忌み嫌っているのかと思えばそうではなく、可愛がったり性の対象として見る人がいるのだから本当に不思議に思う。


物語の中盤で足がつくギリギリの状況で首を吊られても誰も助けに来ない長回しのシーンは見せしめのようでとても切なかった。同じ黒人でも勝手に助ければ懲罰を受けるから助けられない、白人は当たり前の光景で興味がなさそうにしているのが物凄く気持ちが悪かった。

終盤に渋さの滲み出るブラピが、黒人奴隷制度反対派でカナダ人の救世主として登場するシーンは英雄のようで神々しかった。出番は短かったもののヒーローとしての登場が格好良い。

最後に白人の友人に助けられ家族に再開するシーンは心にグッとくるぐらい感動した。


本作で登場する黒人は「自由黒人」と呼ばれる法的に奴隷ではないと定められている黒人と、「黒人奴隷」と呼ばれる人権の無い黒人が登場する。主人公のノーサップは悪徳な白人に拉致された自由黒人のため、教育を受けていた事で絶望せずに希望を持ち続けられたのかもしれない。字の読み書きができた事や仕事で様々な体験をしていた過去の経験があったことで、それを生かした立ち振る舞いで絶望的な環境から脱出することができたのだと思う。他の奴隷たちとの生い立ちが違った事が幸いにも彼の救いになったから、やっぱり教育は大切なんだなって思う。

登場する白人たちは良い人もいれば、悪魔の化身のような悪い白人もいる。所有している奴隷の数が白人のステータスのようになっていたり、奴隷が自分の思い通りにならないと暴力に走る白人たちの行動が気持ち悪かった。鞭打ちすることに何も感じないのかと思いきや、精神的に滅入ったり快感だと自分に言い聞かせるなどの言動を見ると、まだ人間としての心を持ち合わせていたのだと安心する。

奴隷に執着する白人たちの心の弱さが全面的に出ているのが感じられた。実際に行われていたことはこの映画よりももっと酷いものなのだろう。奴隷問題に尽力したノーサップの死の詳細が不明な点に闇を感じる。

実話に基づいたストーリーで大きな出来事はなく淡々とした地味な演出が続き、全く救いが無いから個人的にはハマらなかった。2度目の鑑賞だが、感想は変わらず。ただ辛い映像をずっと流している作品なんだと思う。黒人奴隷の歴史を知るのには良い作品。

長年単一民族の平和な国で暮らしてきた日本人には、黒人たちの虐げられてきた人種差別の苦しみの歴史は計り知れない。
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