むらむら

まったく同じ3人の他人/同じ遺伝子の3人の他人のむらむらのレビュー・感想・評価

5.0
生まれてすぐ、それぞれ養子に出された三つ子の、嘘のようなホントの話。
「おそ松さん」のノリで、小野大輔あたりツモってアニメ映画化したら一部女子ウケしそう。

三人は三つ子であることを知らされないまま、偶然、同じ大学に入学したことがキッカケで、再会することになる。

その後、三人はメディアに引っ張りだこ。メディアは、全く違った環境で育った三人の、なぜか一致する趣味嗜好を、面白おかしく取り上げる。

「三つ子の魂百まで」ではないが、「生まれか育ちか nature or nurture」という長年の議論に「生まれが決定的に大事だ」と思えるような三つ子の存在に、世間は沸き立った。

(@_@) 好きなタバコの銘柄は?
(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚) マルボロ!

(@_@) やったことあるスポーツは?
(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚) レスリング!

こんな調子。裕福な家庭に引き取られたボビー、中産階級のエディ、そして、労働者階級で育ったデビッド。育った環境は違うものの、こんなに共通点があるなんて!

三つ子はニューヨークで共同生活を始める。ディスコに行ってはモテまくったり、「マドンナのスーザンを探して」に出演したり。しまいにはNYに「三つ子」という名のレストランまで開店する始末。このへん、1980年代のバブリーなNYと、ビリー・ジョエルの名曲「Scenes from an italian restaurant」が鳴り響いて、最高に盛り上がる。

しかし、三つ子の間には亀裂が走り始め、自分たちが何故、離れ離れになったのかを知ることになる……。

俺自身はこの話の概要を知っていたんだけど、もしこの話を初めて聞いたのなら、何も前知識を仕入れることなく観てほしい。特に、「マーシャル・ロー」の脚本も書いてる作家・ジャーナリストのローレンス・ライトが、この事件の背景を説明し始めてからは、下手なスリラーを超える映画的展開に。「三つ子」という掴みで観客を引っ張り込んで、最高潮にあげて突き落とすこの構成、エンタメ作品としてもメチャクチャ完成度高い。

昨日観た「奇蹟がくれた数式」が、天才ラマヌジャンと数学者ハーディを中心とした科学の光の部分だとすると、この作品は、影の部分。

事件の関係者として、ナターシャ・フォロヴィッツってお婆ちゃんが出てくるんだけど、オバマ夫妻とかロバート・レッドフォードと一緒に写真撮って西海岸に住んでる、ガチすぎるリベラル民主党員で、「うーん、ガチリベラルって、こーいうこと言うよなー」って言い方してて面白かった。

後半では、急展開する三つ子の人生と共に、「育ち」が、如何に三人の人生を変えていったか、が描かれる。

中流階級であるエディの父親は、仕事に没頭して子供を顧みなかった。労働者階級のデビッドの父親は、お金は無くても愛情たっぷりの、皆から愛される性格だった。

現在の研究結果では、人間の性格形成には遺伝的要因が約半分、環境が約半分と言われている。

環境と言っても人間は成長するにあたって、家庭のような共有環境だけでなく、学校や友人など、個別の外敵環境の影響を大きく受ける。なので、後半、エディの父親が、子供の育て方に関して後悔を述べる部分は、「父ちゃん、そんなに責任感じることないよ」って画面に向かって元気づけてあげたくなった。俺は独身だけど、お子さんをお持ちの方は色々と考えたくなるシーンなんじゃないかな。

マルボロはアメリカで最大のシェアを誇るタバコだし、レスリングも、学校スポーツ唯一の格闘技なので、体躯の大きい(この作品では、三人とも、手が大きいという描写がある)若者が選びやすいスポーツだ。だから、このエピソードだけで「三人は三つ子だから性格もソックリ」ってのは間違ってる。

あくまで、多種多様な趣味嗜好の中で、偶然一致した、って程度。

たぶん三人ともマイケル・ジャクソンの「スリラー」は買ってただろうし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は好きな映画に挙げてたと思う。

でもそれだけで、「三人は同じ遺伝子だから同じ嗜好を持つんだ」って結論付けられないよね。

この部分、エピソードが強烈で、ミスリードを誘発しそうだから、あえて書いてみました。

つまり、結論:三人は似てる部分もあるし、そうじゃない部分もある。

当たり前の結論だけど、この作品を観る方は、是非フラットに、「生まれか育ちか」という、幾度となく議論になるテーマを汲み取ってほしいと思いました。

無気力でニートな俺が言うのもアレだが、「生まれか育ちか」以上に、その人本人の努力や向上心、強い気持ち、ってのが、人格形成や人生を左右する気がする。確かに、この作品におけるエディのように、鬱病やその他の要因で、他人との競争そのものを避けたほうが良い人もいて、そんなに簡単に割り切れるものでもないんだよなー。こないだ観た自閉症のオーウェンくんが主人公の「ぼくと魔法の言葉たち」を思い出して、エディにオーウェンくんの勇気があれば……なんて、そう上手くはいかないよね。

うーん、色々と考えさせられる作品でした。アマプラは11月で配信終了らしいので、興味持たれた方は是非。1時間半くらいの作品なので、サクッと観られます。

久しぶりに「ガタカ」を観返したくなった。
むらむら

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