はる

mid90s ミッドナインティーズのはるのレビュー・感想・評価

4.0
こういう新作を観るのは久しぶりだな。そしてどうしても「ジョナ・ヒル初監督作品」ということがまずあって、その勝手な印象からは意外すぎるほどに繊細で普遍的な仕上がり(多少の悪ふざけもあるが)になったなと思うよりない。
描かれる少年たちとの距離感が良いし、温かみのある視線、当時の文化への愛情など、この短めの尺に収めた手腕は素晴らしい。と同時に良く出来ているがゆえの物足りなさも感じる。

さてネタバレ。
主演のサニー・スリッチ(実際の発音はソジッチに聞こえるが)以外のスケート仲間はプロを含めたスケーターたちで、演技の経験はほとんど無い中であれだけ魅力的に演じられるのは凄いが、それも撮り方次第だろうし成功している。特にレイ役のナケル・スミスは印象的だった。
サニーの実年齢とスティーヴィーのそれは同じ13歳(当時)ということでちょっと驚いた。とは言え、演技はしっかりしていても大人びたところもないから、完璧な配役だったと思う。そういう彼が変わっていく過程では、痛みを伴いつつも思わず見守りたくなってしまう。だからあのラストは苦いながらも良かったなと。ただしレイの言葉をどう受け止めるのかな。

スティーヴィーに付けられたニックネームの“サンバーン”は日焼けのことだが、同じ日焼けの“サンタン”と違って赤い状態のいわば火傷のアレである。つまりそのあだ名が付けられたところで、後の彼がどうなるのかが示されていたのだな。またこの時のくだりで「黒人って何?」と彼に答えさせたが、この辺りは現代で語られる意味を感じさせた。

少年の成長を描いた普遍的な内容に終始している今作は、ジョナ・ヒルのプライベートなものに感じた。見事に現代性は薄く、出来は良いのだけど2018年に撮られたものと考えると物足りないようにも思える。おそらくレイの造形がその部分を補う役割なのだろうけど。
あの童貞卒業の描写のあたりは「さすがジョナ・ヒル」と思えたけれど、ちょっとどうかとも感じた。また気になったのは「デートをしたことがある?」と訊かれて「ディズニーランドのキャストに誘われて遊んだ」というような返しをしたところ。そのまま受け取るとヤバい話だけど、これもさすがの悪いジョークだな。

ジョナ・ヒルはMVもいくつか手掛けているそうで、今作の後ではトラヴィス・スコットの「Wake Up」を撮っている。次の長編があるのかはわからないが、やりたいことが多方面にあるようで、そこもまた意外に思った。
はる

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