柏エシディシ

サンセットの柏エシディシのレビュー・感想・評価

サンセット(2018年製作の映画)
3.0
「サウルの息子」ネメシュ・ラースロー監督の最新作。これは近年の映画作品でも屈指の歯応え。うーん、難しい。そして、面白い。

極端に主人公に依った画面で周囲や物語の行く末すら判明せず、観客の分身たる主人公の目的やその存在すらやがて曖昧になっていく独特のストリーテリングは「サウルの息子」と同様なれど、ゾンダーコンマンド、ホロコースト、ユダヤ教というガイダンスにより迷子になる事はなかった前作より、さらに作品構成が先鋭化され、飲み込み辛い。

タイトルは、まさに第一次大戦に向かうヨーロッパの「黄昏」を示唆し、オーストリア皇太子フランツ・フェルディナンドなんかも登場し、やがて混乱へと向かう中央ヨーロッパの最期の栄華を疑似体験させる意図があるように思うし、また、デコレートされた高級帽子やコルセットを着た女性がやがて男装するシーンに象徴されるファッションや文化的変遷の寓話の様にも感じる。そして、ある1人の女性の自意識の揺らぎ、夢と妄想の百鬼夜行の様にも受け止められる。

とにかく全編、形の揃わないパズルを組み立てさせられる感覚に惑うのだけれど、どうやらそれこそ監督の意図であるようで、混乱する観客の思考は狙い通りの模様。なんて、意地の悪い監督だw
しかし、昨今の映画は説明し過ぎで、観客のイマジネーションの広がりを妨げているという言説にもシンパシーを感じないでもない。

言葉少ない「語り部」イリスを演じるユリ・ヤコブの中性的でどこか病的、妄執的な危うさを感じさせる美貌は見ていて飽きないし、登場する女性たちの美しさ、男たちの顔のなんとも言えない味わい深さ。古い名画から切り取ってきたような写実的でいて想像力が刺激される画面の構成と美麗さも見応え、十分。

たまには、わかったつもりで映画を語るより、こういう映画に翻弄されるのも良い。
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