やまモン

ある画家の数奇な運命のやまモンのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.3
【真実、そして魂の共鳴】

ドイツに実在する画家であるゲルハルト・リヒターをモデルとした、一人の画家の人生を描いた作品である。

慕っていた叔母が別れの際に残した言葉、「真実から眼を背けてはならない。」

余りにも波乱に満ち、時には、芸術における「自分らしさ」を見失いながらも、「真実」を観ることを行動原理として貫いた先にあるもの。

それは「魂の共鳴」

芸術とはいったい何なのだろうかと、芸術家ではない私なりに考えてみる。

芸術とは、あくまでも何かを表現するものであるとするならば、例えばそれは、五感が感知したものを、自分というフィルターを通過させて具現化させたものかもしれない。

或いは、自己の内面から沸き上がってくる、感情という形の無いものに、音や像といった具体的な姿形を与えるものとも言えるだろうか。

ともかく、どちらにも言えることは、自己の外に在ることも、内に在ることも、ありのままに捉えるということなのであろう。

これが作品のテーマとも言える「真実から眼を背けてはならない。」ということなのであろう。

このように考えると、この作品は、一人の芸術家が、真実を追究していく生涯を限られた時間の中に落とし込んだものと言える。

だからこそ、3時間という時間が、時間としての意味を喪失してしまうという錯覚に陥ってしまうのであろうか。

ナチスドイツの時代から、その後の東ドイツと西ドイツにおける芸術の在り方の違いを歴史と共に感じつつ、時に女性の裸体の恐ろしいまでの美しさに、胸を打たれる。

そして最後には、「魂の共鳴」

劇場で作品を観賞しているだけの凡夫である私の魂も共鳴しているかのように、内面がざわつく。

現実世界的に戻ってくるのが惜しいと感じた。