茶一郎

7月22日の茶一郎のレビュー・感想・評価

7月22日(2018年製作の映画)
4.0
 単独犯として世界最悪の無差別殺人をしておきながら、刑務所で「プレイステーション2を『3』にしてくれ」と奇妙な懇願をした事が印象的なクソ野郎テロリストによる「ノルウェー連続テロ事件」を映像化した実録映画『7月22日』。

 監督は『アルジェの戦い』に多大な影響を受けた元ジャーナリストにして、『ブラディ・サンデー』、『ユナイテッド93』と、素人俳優の起用、大集団エキストラの演出、ドキュメンタリータッチの三拍子が十八番の実録映画モノの巨匠ポール・グリーングラス。
 やはりと言うべきか、ポール・グリーングラスによるテロ事件の再現は凄まじく、冒頭30分程のテロシークエンスは、もう、お外に出たくなくなるほどに恐怖、脅威、阿鼻叫喚。
 しかし徹底的に事件「そのまま」を映像にする以前のグリーングラス作品とは異なり、本作『7月22日』は事件後の加害者の裁判・被害者である青年のリハビリという通常の劇映画的要素に上映時間のほとんどを割き、事件の再現というよりはむしろ「ポスト9.11とどう向き合うか」についての映画として、この『7月22日』を作り上げています。

 グリーングラスの実録モノではおそらく初となる時系列の入れ替えや、被害者青年のPTSDを強調するための回想シーンなど、これらは全て「ポスト9.11の歩き方」を描くためにあるように思います。

 本作『7月22日』において被害者の青年は、たとえ「体内に銃弾の破片が残っていても」、反グローバリズムのネット弁慶テロリストに対して立ち上がり、その銃弾の破片と共存する事を選びます。
 その銃弾の破片は我々観客にとってのテロの恐怖、移民の恐怖であり、それらと共存して生きなければいけないポスト9.11がこの世界。
  出身国イギリスのEU離脱の際には、強く「残留」を支持し、「EU離脱は恐怖に屈した事になる」と反発したポール・グリーングラス監督。その監督が作った『ユナイテッド93』がまさに「9.11」を描き、『キャプテン・フィリップス』が「ポスト9.11」を描いた。そして本作『7月22日』は改めて、どうこのポスト9.11の世界をどう生きるかを問う一本です。
茶一郎

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