未島夏

楽園の未島夏のレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
4.1
※‪TOHOシネマズ梅田にて開催、Filmarks‬主催の大阪試写会で鑑賞



人の多面性に踏み込んだ作品が多様な昨今で「村社会」による原始的縮図を敢えて描いた物語が、驚くほど精悍に現代とその先を捉えていく鋭利な傑作。



それぞれの心理が交錯する『人が何をするか分からない』状況を、犯行への動機にたり得る出来事を分配された主要人物三人に絡めるミステリー的誘導。
それが個人と集団心理の交錯による作品のテーマ性へと雪崩れ込む事で、物語は終始二重の意味を孕んだ緊迫感を持ちながら進み、引き込まれる。



個々人が他者を受け入れようと努め続ける事こそ健全な社会を築く唯一の方法だが、人は脆弱故に善悪の二元論的思考から逃れられず、誰かを悪人にする事で束の間の安息を得る。

個人間の些細な誤解や無理解がそのまま集団へと伝達されていく惨劇は、今日も誰かの影に隠れて繰り返されている。
本当はそれに誰しもが気づいている。
白状な人間の集合体が物語で描かれるあの村であり、この国の形成する社会だ。



時代や社会が変わっても一個人としての人間の本質は変わらず、これからもきっと変わらない。
そんな冷酷な現実に物語が見出す「楽園」には、どんな景色が広がっているのか。

たった二文字で克明に示される三人の結末を目撃して、絶望の中で尚も燦然とする希望が目に焼き付いた。

この映画に支えられる事でこれからも生きていけると救われるであろう人の為、この映画をこの社会に生きる人へ勧めたい。
未島夏

未島夏