茶一郎

アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~の茶一郎のレビュー・感想・評価

3.9
 Netflix×デヴィッド・マッケンジー監督×主演クリス・パインの『最後の追跡』コンビ再びな本作『アウトロー・キング』は、アイルランドの英雄ロバート・ザ・ブルースa.k.aロバート1世の死闘を描く歴史劇です。
 お話は、世間的には名作(アカデミー作品・監督賞受賞)とされていますが、メル・ギブソンが民衆に卵やゴミを投げられ、首吊り拷問を受けているシーンが最もエモーショナルに撮られている変態作『ブレイブ・ハート』の続き(後にメルギブは主人公を痛ぶる天才マゾ作家に)。『ブレイブ・ハート』にて描かれていたウィリアム・ウォレスのイングランドへの反乱を、「ご存知の通り」と言わんばかりの短い説明で流した後、ウィリアム・ウォレスの反乱の成果がイングランド王により沈められ、主役をクリス・パイン扮するロバートに交代します。

 ロバートと彼のライバルとなる敵役との関係性、そしてウィリアム・ウォレスの蜂起沈静化を端的に見せる冒頭の長回しからスマート語り口で始まる『アウトロー・キング』、本作の監督を務めたのはイギリスの監督デヴィッド・マッケンジー。
 デヴィッド・マッケンジー作品は曇り空のイギリスを背景にした重い作品ばかりで、正直、脚本の出来によって良し悪しはあるものの平均点以上は必ず担保されたものがフィルモ・グラフィに並びます。ブレイクスルーだったのは、前々作『名もなき塀の中の王』、何より上述の前作『最後の追跡』でした(後に『最後の追跡』の脚本を担当したテイラー・シェリダンがただの天才だったと判明)

 そんな非常に職人監督気質なデヴィッド・マッケンジー監督が初の時代戦国劇に挑んだ本作『アウトロー・キング』は、間違いなく見て損は無い作品に仕上がっている印象です。
 『最後の追跡』が銀行強盗という罪を背負った主人公の逃亡劇であった一方、この『アウトロー・キング』は「王」を名乗ったという罪を背負ったロバートの逃亡劇という様相で、中盤までは(やや退屈な)受け身な逃げ合戦が続きます。
 しかしこの退屈さを吹き飛ばすのは後半からのロバート逆襲以降で、『ブレイブ・ハート』とは異なり、しっかりとジャイアント・キリングをロジックで見せる戦略劇や、冒頭の長回しで見せたライバルとの剣劇が伏線となったラストバトル。悪役のラストは、ちょっとこんなにサービスで良いのかと思うほどの描き方で大変、溜飲が下がります。

 敵役の単純化、受け身なストーリーと、どうにも地味ですが、クリス・パインは文字通り裸一貫の演技で本当に、この『アウトロー・キング』に賭けていたんだな……と。
茶一郎

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