マヒロ

バスターのバラードのマヒロのレビュー・感想・評価

バスターのバラード(2018年製作の映画)
4.5
表題作『バスターのバラード』を含めた、コーエン兄弟節が炸裂したひねくれ度満点の6つの短編西部劇。

どの短編でも必ず"人の死"が描かれているんだけど、そのどれもドラマチックさのかけらもない無情な感じで、その冷徹さとキレの良さに痺れた。

1作目は表題作で、歌う凄腕ガンマン・バスターを描いた、この中では一番西部劇らしい作品。主演のティム・ブレイク・ネルソンは初めて意識してみた人だったけど、人を食ったような演技と顔立ちが面白かった。

2作目はジェームズ・フランコ主演で、この時代のめちゃくちゃな絞首刑を題材にした作品。『ロイ・ビーン』を思い出したり。

3作目はリーアム・ニーソン演じる巡業見世物屋と両手足のない青年の物語。二人身を寄せ合うはぐれ者の心温まるお話…と思わせといて…という意地悪スピリットが炸裂した怪作。寒々しい風景がまた恐ろしい。

4作目はトム・ウェイツ演じる老人が、砂金の取れる川沿で金脈を探し当てるべく延々掘り続ける、というお話。爺さんが穴を掘り続けるという究極に地味な絵面ではあるものの、それに相反するかのように川や山々、そこに住む動物達といった風景が美しく撮られている。後半には思わぬ戦いも待ち受けていて、なかなか見ごたえあった。

5作目は、新天地を目指すキャラバン一行の中で旅をする兄妹のうち、兄が不慮の病気で亡くなってしまい、あてがなくなった妹(ゾーイ・カザン)はキャラバンの護衛の男二人組に助けを求める…というお話。
だだっ広い荒野に原住民が絡んでくるストーリーなど、正統派西部劇っぽさもありつつ、やはりそこは無情なラストが待ち受けている。めちゃくちゃ格好いい戦闘シーンもあったりして、この中では一番お気に入りのエピソード。

6作目は、馬車に居合わせた五人の男女の会話劇。最も地味で、最も死の匂いが立ち込める不気味な作品。

『ヘイル・シーザー』が今ひとつという感じだったので、ここまでブラックな方向に振り切れた作品が観られるとは思ってなくて嬉しい誤算だった。最早大手配給会社ではなく、Netflixでないとこういう振り切れた作品は作れないというこのなのかもしれないけど…。


(2018.76)
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