未島夏

ジョーカーの未島夏のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.4
※大阪試写会にて鑑賞



この映画は今の自分にとって心の拠り所だ。
そう感じるのは少し怖いが、現にとても気分が良い。救われている。

観客は大抵、主人公の感情に寄り添おうと努めるものだ。
普段は大多数の人に無視され無理解を極める孤独に、今たくさんの人が寄り添おうとしている。
こんなにも意義のある作品があるだろうか。

『DC映画』という肩書は客寄せの役割に過ぎない。
どんなきっかけであれ、ジョーカーことアーサーの孤独を理解しようとする人が居る事実が、どれだけ今孤独や他者からの無理解を抱える人の励みになるか。



悪へと道を踏み外す人間に無論社会は冷たい。
個人が悪へと変貌する過程に他者が見逃してはいけない孤独の増幅があっても、残虐な結果を生み出してしまった人間にはもう慈悲など無いのが現実で、後戻りは出来ない。

しかし、映画という虚構の中ではその境界をこじ開けられる。
ジョーカーへと堕ちていくアーサーの孤独に、最期まで観客は寄り添おうとする。



この映画は、普段は決して顧みられる事の無い孤独が育まれる過程をジョーカーというアイコニックな存在に委ねる事で大衆の目を向けさせ、「一人一人の無理解の集合体」となった社会が悪を生み出す大きな一因であると観客に、大衆に気づかせる。

ここまでしてもアーサーに共感出来ない観客は普段どれだけの人間を無意識の内に傷つけているのか検討もつかないが、そんな人達こそこの映画を通して少しでも何かに気付いてほしいと、心奥底から祈る気持ちで一杯だ。



『DC映画』や『ヴェネツィア金獅子受賞作』といった輝かしい肩書きすらつまらないフィルターに感じさせてしまう程、誰かの心奥底を掬い上げるパーソナルで重厚なこの傑作。
どうか届いてほしい。
未島夏

未島夏