ぎー

ジョーカーのぎーのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0
「ジョークを思いついたんだ。あんたには理解できない。」

トッド・フィリップス特集3作品目。
バットマンシリーズの悪役ジョーカーの誕生秘話を描いた作品。
あまりにも酷い内容の映画。
こんなに暗いハリウッド大作は見たことがない。
バットマン3部作の大ファン、バットマン3部作のジョーカーの大ファンとしては、よくぞここまで振り切ってジョーカーのイメージを損なわない作品を作ってくれたという感想。
悪役の生い立ちを描く作品であっても大抵は共感できるポイントを作ったり、人間らしさを感じたりするようなストーリーになってしまう。
この作品は全く異なる。
本当に凄い作品だった。
ヒース・レジャーが完璧なジョーカーを演じたから不安だったけど、ホアキン・フェニックスの演じる精神的にバランスを欠いた、悲劇時代のジョーカーも滅茶苦茶魅力的だった。
そしてジョーカー視点で見た、不平等で報われない暗いゴッサムシティの描写が徹底されていて感動した。
同じゴッサムシティであっても、主人公がバットマンなのかジョーカーなのかでこうも映り方は変わってくるんだと。
よく「笑いあり涙あり」と言うが、笑いも涙も全くない。
クリストファー・ノーランのバットマンを思い描いての鑑賞は絶対にやめた方が良い。

1番印象に残っているシーンは、やっぱりアーサーがジョーカーとなってブルックリンの階段を降りてきた場面。
貧乏で友人も恋人もなく、かつて親に虐待された後遺症もあり笑いの発作を持っているが故に、悪い事を何もしてないのに街の人から暴行を受け、それでもひたむきに生きてきたのに仕事仲間にも裏切られ、仕事も失う。
彼の言う通り幸せな一瞬なんて一度もなかった。
それでもまじめに生きてきた。
しかしとうとうアーサーは我慢する事をやめて、ジョーカーになった。
その内面的な変化が全てに表現された名シーンだったと思う。

それにしてもアーサーの境遇は救いがない。
一生懸命母親ペニーの介護をしているのに、生活は滅茶苦茶貧しい。
頑張ってピエロのアルバイトを務めているのに不良少年にリンチされ、商売の小道具を失い、しかもそれを勤務先で叱責される。
突然笑い出す精神病を抱えている。
定期的なカウセンリングの担当者も形式だけで、全然話を聞いてくれない。

それでも、アーサーは不満を爆発させるでもなく、真面目に生きていた。
それは一緒に住んでいる母に、憧れのマレーに、ゴッサムの名士トーマス・ウェインに、同じマンションに住む女性ソフィーに、同僚のランドルやゲイリーに、希望や信頼を持っていたから。

だからこそこの映画は残酷。
母は実母ではなく自分を昔虐待していて、言っていることは全て嘘だった。
マレーはテレビ番組でアーサーを笑い物にした。
トーマスは、突然の訪問で不審すぎるとはいえ、愛情を求めたアーサーを殴った。
ソフィーは別にアーサーのことを特別な人とは思っていなかった。
ランドルは銃をアーサーにあげておきながら、裏切り、アーサーは職を失った。
彼は全ての希望と信頼を失った。
だから彼は何も信じていないし、失うものも何も持っていない。
この映画はバットマンシリーズとは別物とのことだけど、シリーズ中のジョーカーの設定とも辻褄が合っていて、よくできていると思った。
だからこそジョーカーは、多くのことを信じていて、多くのモノを抱えているバットマンにとって最強の敵だったのだろう。

そうなった時、アーサーはどうなる事を選んだか。
彼は我慢する事をやめた。
爆発させることにした。
そして、ジョーカーになった。
人生は彼にとってそれまで悲劇でしかなかったのに、喜劇になった。

だからこそ、この映画は滅茶苦茶危険。
でも、この映画を危険だと切って捨てることは絶対に出来ない。
現実世界に生きる僕らに求められているのは、アーサーのような境遇の人を減らし、無くし、ジョーカーを産まないことなのだから。

本当によくできた映画だと思った!

◆備忘ストーリー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ジョーカー_(映画)
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