Ren

ホットギミック ガールミーツボーイのRenのレビュー・感想・評価

4.5
本当に大好きな映画。初見はFilmarksを始める前だったけど、この前再見したのでちゃんと書くことにした。漫画に疎く原作は未読なので比較レビューはできないが、映画版の好きなところをまとめる。

山戸監督はDJだ、と本気で思った。全ての映像、カット、台詞、音楽を計算して積み上げてグルーヴさせ、2時間に渡りMIXしていく。忙しないほどにカットが刻まれ、一部を除き劇伴は止まってくれず、独特な推進力で物語を引っ張っていく。

魅力はそれだけではなく、映像そのものもとても綺麗でいわゆる「エモさ」を具現化したような美しさがあった。豊洲のマンモスマンションの無機質かつ現代的な雰囲気、渋谷や原宿の説明不要な今感の全てが平成の真空パックとして機能している。きっと数十年後にはノスタルジーと呼ばれるようになるであろう、混じりっ気無しの2010年代感。
テンションはとても漫画的で好みは完全に分かれるだろうけど、前述のように徹頭徹尾調律された映像作品なので2時間のPVを観るような感覚で楽しんでほしい。平成のPV。

車内でタバコを吸うシーン、溢れたココアのカットなどポスターのような画がしっかり決まってる。物語上不要なキメが映る度に、映像作品としての覚悟とプライドが感じられる。一方で赤本がズラーッと並んだ場面では急に現実世界と繋がった気がして不思議な気持ちになった。

女性をトロフィーとする支配欲の塊みたいなクズや復讐のために人の心を踏み躙るクズ、滅ぶべきクズ男のキャラクター造形が無理な感覚も分かるが、そういう「いかにも」なキャラクターにも意味がある。

初(堀未央奈)が、男性性社会の中で自分自身を世界の中心に据えるまでの物語。自己肯定感が低い彼女の周りに集まる3人の男性は彼女を「助けたい」というかなり独りよがりな発想で隣に座ろうとする。初は彼らとの日々を通じて、自分の体は自分のもの/自分の人生は自分のもの、という答えに帰着し「女性は男性のトロフィー」という価値観から脱却していく。
コメディに振らず、かと言って難解にもならず、ロジカルにかつお洒落にという独特のバランス感覚でやってのけているのが素晴らしい。
「バカで空っぽ」という言葉が、男はバカで空っぽな女が好きという意味から、バカで空っぽになることでその場その場の人生を楽しむという意味へ。

乃木坂46在籍中にこの役を演じようと決めた堀未央奈の慧眼にも拍手を送りたい。ファンはリアルタイムでこれを観てどんな感情を抱いたのだろう。
清水尋也、かなり独特の雰囲気を持つ役者だけど出てくれば画面が締まるし当たり役が多い。『渇き。』『ミスミソウ』『さがす』など、陰のある人間は彼に任せておけばOK。

その他、
○ タイトルバックのタイミング。清水尋也のカスみたいな捨て台詞がなぜかお洒落に聞こえてしまう。
○ ラスト、堀未央奈と清水尋也のカット割りまくり捲し立てシークエンスは、会話というよりはポエトリーリーディングの曲を聴いているよう。譜面の上に成り立っている映画。
○ 泉まくらの『春に』、花譜の『夜が降り止む前に』良すぎる。
○ 志磨遼平はどういう経緯で出演したんだろう。
○ キラキラ青春映画そのもののステージを爆上げした記念碑的作品として今作を挙げたい。山戸結希監督作品はもっと海外でも評価されるべき。
○ 色々疲れて深夜に部屋暗くして観てたらよく分からないけど泣きそうになった。
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