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ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハードのKKMXのレビュー・感想・評価

3.9
 L7のドキュメンタリーを観たので、70年代後半のロンドンパンク時代に登場した世界初の自立した女性ロックバンド・スリッツのガーエーも観ました。
 個人的にスリッツはL7以上に馴染みが無く、名盤とされる1stもほとんど聴かなかった。改めて本作を観ても、やっぱり音楽的にはそんなに好みではないな〜としみじみ感じました。
 とはいえ、やっぱりアティテュード的にはイカしており、ドキュメンタリー作品としてもなかなか観応えありました。


 偉大なるストラマー兄貴との同棲を経てパンクロックに触発されたドラマーのパルモリブが、まだ少女だったアリ・アップと組んで結成されたバンドがザ・スリッツ。やがてベースのテッサとギターのヴィヴが加入して、パンクバンドとして活動をはじめます。
 ジャマイカ移民との交流を経てレゲエを取り入れたり、パルモリブ脱退後はポップグループとの交流でニューウェーブ的な多様性を取り入れたりと、音楽性は非常にリベラル。逆に言えば、ポップチューンを書くつもりはなかった様子。俺がスリッツあんまり好きではない理由はコレですね。
 それが仇になったかは断定できませんが、よりアーシーな方向性を持った2ndはセールス的に失敗し、解散。

 とはいえ、スリッツのアティテュードは後世に絶大な影響を与えたとのこと。確かに、音楽はピンと来ないがやってることはピンと来まくり!パルモリブ脱退後は男性ドラマーを加えるのですが、マネージャーが言うには「もはや男女とか関係なく、新しい種族だ」とのことで、この開放性は素晴らしい!男尊女卑からはどうしてもアンチ男ムーブメントが生まれやすいですが、それをすでに超えてますからね。マジでカッコいいと思いました。
 ステージングもめちゃくちゃイカす!カリスマ・アリだけでなく、何気にギターのヴィヴがカッコいいです。


 2006年にスリッツはアリの呼びかけで再結成。ヴィヴは不参加でしたが、ベースのテッサは呼応して、若いギャルたちと新生スリッツでツアーしたり新曲リリースしたりしました。本作ではこの辺もしっかり描いていてよかった。後半はテッサとアリの物語という印象です。アリはやがて病を得て死去しますが、テッサとの最後の関係もどこか悲哀を感じさせます。
 アリはかなり激しい性格だったようです。再結成ツアーとか観ていると、ヴィヴが合流しなかったのも感覚的に理解できます。スリッツは自由でしなやかですが、燃やし尽くすような炎があり、それがアリの個性だったと思います。その炎が結局自らも燃やしてしまったように感じ、俺から見ると彼女の人生は切なく思えました。

 本作はアリの遺言によって制作されたとのこと。そう考えると、アリの生き様が本作には刻み込まれており、本作によって、アリはついに人生を全うしたのかな、と感じました。
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