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テルアビブ・オン・ファイアのalmosteverydayのレビュー・感想・評価

4.0
シリアスな題材を扱いながらもクスッと笑えるコメディとの触れ込みに期待して臨んだところ、想像以上に好みの作風でした。劇中劇で始まる導入部、些細なセリフ回しをめぐるテンポのよい会話劇。冒頭5分で「おお、これは好みの脚本だ…!」と確信させてもらえました。大当たり。

作品の背景や民族対立にまつわるあれこれは公式サイトほかをあたっていただくとして、何がいいって主人公の適当ぶりが絶妙なんですね。いかにも物事を深く考えなさそうで行動がいちいち行き当たりばったりで、物語の展開もご都合主義っちゃご都合主義なんだけど妙に落ち着き払ってるんですよこの人。検問所の司令官に詰め寄られたり元カノのお父さんに睨まれたりドラマの主演女優に粉かけられたりしたらふつう、慌てふためいたり口ごもったり目が泳いだりしそうなもんなのにこの人は違う。常に何かこう、妙にへラ〜っとしてるんです。稟議や承認が要るであろう重要事項への介入を迫られても「よしきた」「約束する」で即決。口から出まかせにも程がある、にもかかわらず何でか知らんが妙なもっともらしさがある。でたらめではなく適度に当たってるほうの適当かもしれない、と思わされてしまう人たらし感が。

このサラーム役、実はまだまだ若い俳優なのかな?と気になってクレジットを見てみたら78年生まれの40代。あの酸いも甘いも噛み分ける蔭のある顔つきに、余分な肉がほとんどない細い腰回りを兼ね備えるとはとんだクセ者かもしれません。検問所でシャツをめくってくるっと一周させられるシーン、思わずじっと見入ってしまったではないか。お腹まわりがすっきりしている同世代をみるとこちらの気合も入るというものです。

あとはそう、根深い対立を抱えながらも人にはそれぞれそれぞれ日々の営みがあって、どちらが正解でも正義でもないことを示すようにフラットな目線で描かれているのがとてもよかったです。些細な習慣の違いが新聞沙汰にもなりうるというシリアスな現実が、ちょっと目線を変えてみせることでこの上なく知的なユーモアへと昇華されている。真の意味での悪役が誰ひとり出てこないところも最高でした。ちゃっかり職権乱用しまくるばかりか恐喝まがいの尋問も辞さない司令官だって、家に帰ればあっけなく奥方の尻に敷かれちゃうのです。これこそ人間味ってやつよね。
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