ベルサイユ製麺

ザ・ミストのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ザ・ミスト(2018年製作の映画)
3.1
なかなか思い切ったタイトルが出ましたな!
『ミスト』と言えば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と並んで現代鬱映画の金字塔と言われる作品ですが、同じく現代が舞台のSF ホラーにタイトル『ザ・ミスト』と付けるとは!
これは…ワンピースの新刊発売日なのかな?と思ったらフェアリーテールだった…ぐらいの紛らわし案件!なんとか出来なかったのか?ワザと⁇
霧の映画となると『ザ・フォッグ』も既にあるしなぁ。…間を取って『ザ・ミスティ⇄フォッグ』はどうかしら?なんかカラフルな髪を逆立てた五人組が目に浮かびますね。ファンに酷いこととかしそうです。


パリ行きの機内から電話をする男マチュー。話し相手は娘のようだ。パリに着くと(恐らく)別居状態の妻アナの元を訪れ、娘のサラの部屋に。
…サラは狭いカプセル状の無菌室の中にいる。サラはもう12年も(産まれてからずっと?)このカプセルにいて、友達はビデオチャットする同じ年頃・同じ病の子たち。治療法は見つかっていない。

一先ずマチューが自分のアパートに居ると突如地震?…に見舞われる。通りに出てみるとサイレンが鳴り響き、通りは大混乱。…地下鉄の入り口からは霧のような物が立ち昇っている…。その霧はビルの谷間からも押し寄せ、マチューは慌てて妻と娘の元に走り出す。
病気のため外に出られないサラを止む無くカプセルに残し、妻と共に上の階の老夫婦の元に避難するマチューとアナ。
霧はギリギリこの階の階段を飲み込む高さ。外を見ると眼下はまるで雲海のようだ。
娘のカプセルのバッテリーは保ってあと10時間。無線での通話もきれぎれ。せめてなんとか予備のバッテリーと交換し、出来れば美味しんぼ全巻でも置いていきたいが…。


マチュー役にロマン・デュリス、アナ役にオルガ・キュリレンコ。…今の今までキュレリンコだと思ってましたよ。主役2人は結構豪華ですよね。
89分しか無い(90分を切ってくるのはメッセージだと思う)ことも有り、初っ端からごく簡潔な前提の状況説明、更に即パニック突入と話が早い!主人公たちが訳も分からず、状況を飲み込めないまま酷い目に遭いキュウキュウとなっている様は…ホント楽しいですね!彼らが直ぐ諦めて自死するような人たちだと映画になりません☺︎
霧、というか煙というか、CMのLUXスーパーリッチみたいな色の濃密な靄がパリを包み、それを吸い込んだ者はパタパタ倒れていきます。触るのは問題無し。夫婦にとっての最重要項目はカプセルの中の娘を生かす事。だから彼女が閉じ込められているアパートから逃げようとはしません。
…と、なると、ただ死を待つのみということになってしまうので、“娘のような病気の患者が着用してそのまま移動出来る特殊なスーツをパリの中心部にある研究所まで取りに行く”というミッションが発生します!おつかいだー!!

霧で視界の悪いパリの街中を、酸素ボンベをつけて彷徨う描写は意外と悪くないと思います、風景が黄色く濁り、横たわる人々は微動だにせず音1つない世界。悪夢みたいで好きです。…ただね、どうしてもタイトルのせいでアレと比べてしまうので、地味な印象を持たれるのはやむを得ないかも🕸🕸🕷
個人的に好きなシーンは、視界の悪い中を大型犬に追いかけられて川に転落するところ!思わず“オバQか!”と突っ込んでしまいますな。ん?…犬⁇って思いますよね。自分も思いましたよー。

遠〜くの方で暴動が起こっているという表現が立ち昇る煙だけだったり、人心の荒みっぷりを見せるエピソードが1つしかなかったりと、不満点は少なくないのですけど、それらは全て予算等、環境面の問題であるのに間違い無いのであんまり責める気も起こりません。寧ろこの“ゾンビの出ないゾンビ映画”みたいな雰囲気は好みでした。コレ、もし自分の住む街が舞台になってたら相当に面白く感じそうですよ。イッヒッヒ。
人間ドラマに関しては行動原理の一事が万事“娘のため!”なので葛藤の余地すら無くて、そのせいでちょっと淡白な印象になっているかも。
…ダメだ。レビューが淡白になってきたぞ。

気になる方が多いと思われる、そもそものこの現象の原因ですが、実は一切説明されません!(でもまあ“軍の実験で…”とか言われても…って感じでは有りますが)更にこの現象、×××××!…となって、オチになります。なんかショートショートとか、藤子・F・不二雄のSF短編みたいな終わり方を迎えます…。勘の良い方なら気づいてしまうかもしれませんが『ブラインドネス』的な…。あと、ひょっとすると“エヴァ”も参照してる?

かなりコンパクトな作りは勿論意図通りでしょうし、大足なSF大作はちょっと食傷気味って方には丁度良い、お粥のようなSF作品だと思います。勿論、二日酔いでも入院中でもずーっと肉食ってたい!ワイスピ観ていたい!って方には全くおススメじゃないですよ…。