染若

運び屋の染若のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.2
90歳の男がひょんなことから麻薬の運び屋になってしまい…と、あらすじからハードボイルドな展開を予想していたのですが、ヒューマニティに溢れた、そしてコメディにも近い軽妙な作品でした。

まずは、監督自らが演じた主人公アールがまあ魅力的。冒頭の回想シーンで既に人生の終盤にかかる年齢なのですが、それまでのン十年をどんなふうに過ごしてきたか、手に取るようにわかります。仕事が出来て交友関係も広くて。でも調子がよくてええカッコしいで。でもって、だいたいこういう男性はやりたい放題で家庭を顧みないから家族とは上手くいってない。いるいるこういう人(笑)

とにかくアールの〝持って生まれた〟感が気持ちいい。ギャングにすごまれても恐れないで、対等に話なんかしてしまいには仲良くなっちゃう。見張り役がいてもなんのその。麻薬を運ぶ道中で平気で道草を食ったりします。

特に好きだったのがタイヤがパンクして立ち往生してる黒人の親子に「ニグロ」と蔑称で呼びかけてしまい(それも親しげに)、逆に親子から「いまはそういう呼び方しないんですよ」と戸惑われながら諭されるシーン。これまでどちらかと言うとイデオロギーに凝り固まった役が多い印象だったクリントが、実に奔放な爺さんを演じてる!なんだか嬉しくなりました(笑)

後半はそんなアールと家族との和解が描かれます。本当のお別れにならないと素直になれないこともある、そこからほんの僅かでも〝やり直せる〟様にジンときます。クリントの人生とも多少リンクするのかもしれないですね。しかも娘役の人、実の娘さんっていうじゃないですか…^^; 粋なのかなんなのかわかんないキャスティングです(笑)

さてお話に戻りますが、麻薬の運び屋という設定に対し相応の結果が用意されています。ここはなかなかの迫力。追いかける警察官ブラッドリー・クーパーが実にカッコいい。終始物語のアクセントになっていたと思います。

結構ほのぼの観ていたストーリーでしたが、最後にやられた~。デイリリーの使い方が随所で素晴らしかったけど、ラストシーン愛おしそうに花を見つめるアールの顔見たら一気に涙腺壊れましたよ!エンドロールは涙止まらず。自分のことだけ考えてやりたい放題(でもキャラで許されてきた)アールの人生(というか、ほぼ余生‪w)が、ほんの少し〝誰かのため〟の営みに変わったんだなと。優しい世界に胸がいっぱいになりました。

90歳からでも「間に合う」何かがある。あからさまでない、そのメッセージの伝え方もどこか奥ゆかしく、とても好みな映画でした。観てよかった
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