Kamiyo

蜜蜂と遠雷のKamiyoのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
3.9
2019年”蜜蜂と遠雷” 監督.脚本 石川慶
原作 恩田陸:(『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎文庫))

原作は未読だが直木賞と本屋大賞をダブル受賞したのだから評判は上々なのだろう。しかし今回の映画化は当然の流れとは言え小説と映像は別物という通説のマイナス面が出た形となった。

見る前まではピアノコンクールの優勝を争う四人の男女の丁々発止のやり取りや心理戦を経て大団円へとなだれ込んでいくような娯楽作品を予想していた。
しかしいざふたを開けてみると、かつて天才少女と騒がれた女性ピアニストの”心の旅路”とでも言うべき精神的な距離感の伸縮を中心に据えていた。

国際ピアノコンクールを舞台に、ヒロイン亜夜(松岡茉優)、明石(松坂桃李)、マサル(森崎ウィン)、塵(鈴鹿央士)の四人のそれぞれ出自も個性も全く異なるピアニストが頂点を目指して熾烈な業を競う様を描いている。

母の死をきっかけにピアノが弾けなくなったかつての天才少女・栄伝亜夜(松岡茉優)は、7年間のブランクを経て国際ピアノコンクールで復活を目指すヒロイン。

音大出身だが現在は楽器店で働く、妻子持ちで28歳コンクール年齢制限ギリギリの高島明石(松坂桃李)は、家族の応援を背にラストチャンスに賭ける。

さらに幼馴染でヒロイン亜夜の母親からピアノの楽しさを教わった米国籍で名門ジュリアード音楽院在籍中で完璧な演奏技術と感性を併せ持つマサル・C・レビ=アナトール(森崎ウィン)は、優勝候補として注目されている。

そして、パリで行われたオーディションに突如現れた謎の少年・風間塵(鈴鹿央士)は、養蜂家の父親に連れられヨーロッパを転々としていた16歳の少年、
先ごろ亡くなった世界最高峰のピアニストからの「推薦状」を持っており、そのすさまじい演奏で見る者すべてを圧倒していく。

4人の奏者がそれぞれに自分の音を捜し、喜んだり苦悩したりする様子が描かれますが、説明的な描写やセリフは少なく、ドラマ性は薄いです
この4人はライバルという立場でありながらどこか盟友といった親和性があった。隙あらば・・・そんな足の引っ張り合いを予想していたのでこの辺りは意外。

特に4人が海岸を散歩しながら砂の上にできた足型の音符を見ながら曲名当てのクイズをする場面などは無邪気さとプロフェッショナルの極致が両立されていて感服した。
音楽に疎い自分にもオーケストラを従えた決勝戦のリハーサルの緊張感はひしひしと伝わって来た。亜夜が他楽器の圧力に押され一瞬7年前の弾けなくなった時を思い出す
カットバックも効果的だった。

オープニングは在りし日の母親と亜夜が楽しそうに連弾しているところから始まる。
ここで降りしきる雨をスローモーションで大写しにしたり、黒い野生馬のイメージショットがインサートされる。
雨のシーンは後半で亜夜が決勝戦を前に再び演奏を放棄しそうになるエピソードで使われ、
どうやら母親の思い出とこの雨が密接に結びついていることがわかる。しかし野生馬んついては何を意味していたのか未だにわからない。
本作は、過去の天才少女、栄伝亜夜が自身のピアノ先生でもある母の死を克服し、弾けなくなったトラウマからの復活劇が中心です。彼女の他のバックグラウンドをばっさり切っているため、そのトラウマに囚われすぎで、
ずっとグダグダしているように見えることが残念です。
これに限っては、もっと描くべきでした。
そして、復活のステップともなった、風間塵と栄伝亜夜の月光の下のピアノ工場の片隅での連弾。
無邪気に、心から楽しそうにドビュッシーの「月の光」他を弾く二人は、美しく、エロささえも感じさせます。
音楽にも詳しい川本三郎氏によれば、「ドビュッシーの『月の光』から、映画『ペーパームーン』の主題曲にもなった『イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン』へ、さらにベートーヴェンのソナタ『月光』へと月尽くしのメドレーになる。至福とも言っていい映画の時間だった。
映画でしか出せない美しさってこういうことなのでしょう。
クラシックやピアノに縁の薄い私自身は、「コンテスタント(出場者?演奏者?のこと)」「カデンツァ(即興的、アドリブ演奏のこと)」という言葉も知らず、一定レベル以上のピアニストの上手い下手は分かりません。

「超名門のジュリアード音楽院出身のマサル」「死去した世界的ピアニストからの推薦状のある塵」など、分かりやすい記号はあります。
しかし、僕を含め、違いの分からない人達は
彼らがいかに天才であるかを見せてもらえないと
そのすごさが分かりません

この作品のクライマックスの栄伝亜夜の決勝曲 
プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第二番」、シビれました。
松岡茉優の真骨頂ここにあり、といった感じです。
曲が素晴らしかった、ピアニスト、表情も特になく
淡々と弾いているんですね。
いや、普通はこうなんでしょう。
撮影時、プロのオーケストラ団員に囲まれて、それだけで恐縮してしまうのに「栄伝亜夜はやっぱり天才だ」と分からせる表情、顔芸、動き。。
松岡茉優さん恐れ入りました。
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