Kamiyo

妻は告白するのKamiyoのレビュー・感想・評価

妻は告白する(1961年製作の映画)
4.3
1961年 ”妻は告白する” 監督増村保造 脚色井手雅人
原作 円山雅也

この作品は若尾文子の代表する作品と言う触れ込みなので期待して鑑賞致しました、強烈な余韻が残される傑作です
法廷シーンから始まりますが法廷劇ではありません
むしろ判決がでてからの終盤こそが本作のテーマです
それまでは背景の説明にしか過ぎないのです
タイトル通り妻は告白をします

薬科大学の助教授で登山マニアの滝川亮吉(小沢栄太郎)とその妻・彩子(若尾文子)、そして滝川の研究室に出入りする製薬会社の社員・幸田(川口浩)の三人が穂高に登山に出かける。険しい岩山で互いに体をザイルで繋ぎあってのロッククライミングの最中に滝川が滑落し、一番上の幸田とその次に位置する彩子を引っ張る形で宙づりになる。彩子は苦しさのあまり、またこのままでは幸田が下の二人を支えきれず全員が死んでしまうと思い、滝川がしがみつくザイルをナイフで切断したため滝川は一人谷底に落っこち無残な死を遂げる。

彩子は戦災孤児で、大学助教授:滝川に力づくで口説かれ、生活のため結婚する。
滝川は妻を召使扱いする本当に「イヤなおっさん」(小沢栄太郎が好演しすぎ(笑))。
でもこのイヤなおっさんも妻を愛していないわけではない。不器用で可愛さ余って妻に辛くあたっているらしい。
とにかく夫婦はお互いを理解できず、関係は冷え切っている。そこにさわやかな理解者の幸田が登場。
妻は当然のごとく幸田に魅かれ いった…。
幸田は、そんな彩子に出会ってから、徐々に彩子の魅力に引き込まれて行き、情事の手前状態。

この事故の後、彩子と幸田が親密な仲になっていたらしい滝川には五百万円という高額の保険金が掛けられていたことなどから、彩子が殺意をもって滝川を死に至らしめたのではないかとの疑惑が生じ彩子は被告として訴えられ裁判に持ち込まれる。 
果たしてこれはやむにやまれぬ緊急避難的な行動だったのか、それとも幸田に好意を寄せる彩子が、何事にも自分勝手で彩子をいじめぬく亮吉を故意に殺害した殺人事件なのか。裁判は検察官(高松英男)と弁護士(根上淳)が激しく対立する法廷劇を軸に進行していく。

美しい彩子の内心にはひょっとしたら怪しい欲望が潜んでいるのではないかとも疑わせる若尾の表情が印象的である。幸薄い生活からなんとか抜け出したいと純粋に願う彩子。当然のことに若くて優しい幸田に夢中になる。
ヒロインの一途さに比べ登場する男たちはいずれも情けない。夫の滝川の身勝手さは論外。妻を苦しめるためにあえて離婚しないという蛇のような醜い男だ。
それなら彩子に親身になる幸田はどうだろうか。
彩子の告白に答えるように愛情を伝えるものの事件における彩子の真意を知るに及んでから腰が引けてしまう。
幸田の婚約者である理恵(馬渕晴子)の言う「あなたは結局誰も愛さなかった」という一言が痛烈。
純粋に愛に殉じた彩子のシルエットで映画は幕となる。

素晴らしいのは、ラスト近くぬれネズミのような姿で幸田の会社に現れる時の姿です。相手を金縛りにしてしまいそうな視線を投げかける彩子とその後ラストまでの一連のシーンは、実にスリリングで見る者を驚かせます。
「”愛する(が)ために人を殺したのよ
女の本心はみんなそうよ
女の心には愛があるだけ
愛のためならどんな犯罪だってやるわ
そんな女をバカだとか気違い言うのは男よ。」

このシーンの若尾文子の演技は出色です
若尾文子は幸薄い美女に適役で、見事な熱演である(鼻にかかった声が色っぽい)。特に雨で全身濡れながら幸田を見つめる姿は、色濃い情が画面から溢れてきそうなほど鬼気迫る迫力

1950.60年代邦画の作品を観るようになって気づくこと。
脇役に素晴らしい個性派がいるということ。
しかもその人たちの多くが脇専門。
若尾文子に殺される夫を演じる小沢栄太郎もその一人。
本作でも本当に嫌な夫を、男でも憎悪するほどに(そりゃ若尾ちゃんを不幸にする奴だから当たり前だけど)
憎ったらしく演じている。
ザイル切られて当然。むしろそのことで不幸のどん底に落ちていく若尾に同情するのはごく自然な心情なのである。解釈の余地もないほどの嫌な奴を演じられる稀有なる悪役である。この人本当に嫌なオヤジの役がはまっている。
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