このレビューはネタバレを含みます
これまでミステリー物はあまり観てきませんでしたが、そんな私でも楽しめました。
あいにくミステリーには疎いので、当該レビューは細かなミステリー小説へのオマージュやトリックには触れずに私なりの本作の解釈を述べたいと思います。
以下レビュー↓
『他人に優しくできるのは、自分が余裕のある時だけだ』
これを要点に述べていく。
ハーランの専属看護師であるマルタは献身的に彼を支え、業務以外の面でも彼の側にいて、信頼も厚かった。
それはハーラン以外のスロンビー一族も認め、マルタを家族同然に迎えていた。
マルタ自身は元々移民であり、スロンビー一族は選民思想であるヒトラーを批判し、彼女に寛容な態度を示した。
しかしハーランが死に、その遺産を全てマルタが相続することが分かると、その態度も一変する。
一族の関心はハーランの富と財産だけあり、その富と財産こそが一族を社会的に上位の立場として存続させる担保であった。
ハーランを支えてきたマルタは一族からすれば立場的に"仕える側"であり、彼らはその優位性を前提にマルタを受け入れていたのである。
つまり仕える側の人間が上の立場である自分たちの脅威になることなどあり得ないと分かっているからこそ、寛容な態度を示せるのである。
しかしその優位性の後ろ盾が全てマルタに移ると分かれば、自分たちの立場も危うくなる。
そうしてこれまでの彼女への態度は手のひらを返したように変化し、罵詈雑言を浴びせるのであった。
結局これまでの態度は全て表面的なものであり、腹の中では家族としては認めていなかった。
加えて彼女の相続を放棄させるため、マルタの母の不法移民を脅しに使う有様である。
ヒトラーを批判し、移民に寛容であるように振舞っていたが、結局彼らも潜在的な選民思想主義者なのである。
これは現代のアメリカの大統領選挙にも当てはまる。
表面上ではヒラリーを支持していたが、選挙結果は移民排除の思想を唱えるトランプの票数が上回った。
人は本心とは真逆の事を言いがちであり、そうして表面的な自分を演じるのである。
身体的な理由はあるとは言え、嘘をつけず、自身の保身より他人を気遣うマルタには心打たれるものがあった。