はる

スケート・キッチンのはるのレビュー・感想・評価

スケート・キッチン(2018年製作の映画)
4.5
今月の初めにBSで放送された『Learning to Skateboard in a War Zone (if You’re a Girl)』(邦題:スケボーが私を変えるアフガニスタン 少女たちの挑戦)を観た。
この短編ドキュメンタリーは今年のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞を受賞したもので、邦題が示すように、アフガンでの女性の立場、とりわけ少女たちが抑圧の中でどのように過ごしているのかが描かれる。詳しくはここで語らないが、当地では「スケーティスタン」という、オーストラリア人のオリバー・ペルコビッチが創設したNPOがあり、そこでは女の子たちに教育とスケートボードの場を与えているという事実を知った。少女たちが屋内に設けられたスケートパークで拙いながらもスケボーを楽しんでいる姿には、言いようのない感動とともに複雑な思いが混じることになる。
そういう流れで、以前から観ようと思っていた今作を思い出す(制作順は逆)。このタイミングが良い巡り合わせに思えたからだ。

今作は実在のスケートグループを基にしたドキュメンタリー風の物語で、主にそのグループの女性たち本人が出演している。NYのスケートシーンや10代の女子の生々しい会話など予想以上にリアルに受け止められた。前述のアフガンの少女たちとの国や社会、文化などあまりにも違うそれぞれの事実や物語は「抑圧、差別、偏見」において繋がっていると思えるし、この両作で「スケート」が重要であることはとても興味深い。

ややネタバレになるが、この物語ではいろんな男女のスケーターが出てくる。そしてその性的指向もさまざまだ。しかしそこで何かが起こるわけではなく、ごく当たり前のこととして物語は進む。しかし男が女を下に見ようとする「よくある構図」は変わらず描かれる。その上で女の子たちがどう振る舞うのか。これが素晴らしい。
「スケート・キッチン」メンバーへのインタビュー記事にあるこの態度が作品を包み込んでいる。

「これまでは、女の子が出てる映画にはいじわるな子がいて、女の子同士の対立が描かれることが多かった。実際に女の子同士がサポートし合えるということをクルーを通して映画で表現したかったんです。お互いを蹴り落とすのではなく、若い女の子たちがつながってサポートし合うポジティブな空間ができるようになったらいい」。

この態度は男子たちの描かれ方にも反映されていたと思えるし、理解し合える仲間として「そうあればいい」とも思わせてくれる。
ラストのあの優しさは前向きな願いに満ちていた。
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